タンディン地区(Tan Dinh)と言う地名に聞き慣れていなくとも、「ピンクの教会」と言えば、あぁ、あそこかと納得する観光客もいるだろう。
観光ガイドブックでも、ホーチミンでのインスタ映えスポットとしてすっかり有名になっている「ピンクの教会」、タンディン教会がある一帯のことだ。
「ピンクの教会」を写真に収めると、そのまま引き返してしまう人が多いようだが、実際には穴場グルメスポットが密集する、美食好きにはたまらないレストラン密集エリアだったりする。
本記事では、屋台やレストランを四軒ご紹介するが、まずは、お腹をすかせるために、タンディン市場の散歩からスタートすることをおすすめしたい。

色とりどりのフルーツ
南国ならではの、色とりどりのフルーツに出迎えられる。
市場内は、けっこう広々としているものの、照明が暗いせいもあって、どこか圧迫感のある空間である。

独特の世界観
事実、品物がところぜましと陳列され、店同士が密着しているものだから、客が通れる通路の幅も、数十センチといったところであり、独特の世界観が醸し出されている。
地元ッ子は、そんな窮屈な売り場にも慣れっこの様子で、顔見知りの客と店員も多いらしく、狭い通路で立ち止まって延々と雑談を楽しむ様子も。

会話を楽しむ買い物客
品揃えとしては、観光客のことがほとんど意識されていないラインナップではあるが、だからこそローカルな生活を垣間見るのには適しているスポットであるといえ、市場内を何周しても退屈しないような楽しさがある。
市場の雰囲気を堪能したら、いよいよ食べ歩きスイッチをONにしよう。
目次
「Banh Xeo 46A」バインセオの実力店
まずは、バインセオの専門店Banh Xeo 46Aへ。
立地としては、かなり分かりづらい場所であるにも関わらず、屋内、屋外に、合計三つの飲食エリアがあるという繁盛っぷり。

屋外と室内にスペースを持ち、繁盛っぷりが伺える
外国人観光客の姿も多く、その名声は海を越えて、各国へ届いているのだから、大した物。
店内には、ひっきりなしに客の入れ替わりがあり、客からは次々とオーダーが飛び込むのだが、それをスピーディにさばいているのがウェイターのお兄さんたち。

熟練を要するバランス感覚
最初は、見ているだけで(トレイを落とさないか)不安になるような早足で、レストランの敷地内を動き回るのだが、観察を重ねるうちに、絶対的な安定感があるという自信があるからこそ、このペースで店内を移動しているのだということに気づく。
店内のすみっこには、直径一メートルくらいありそうな巨大トレイが、立てかけられている。

この巨大トレイを使いこなせると一人前
このレストランで一人前と呼ばれるウェイターへなるには、このトレイを軽々と使いこなせるスキルが、ある意味、「登竜門」になるのではないか。
キッチンは屋外に設けられており、炎天下のホーチミンで、巨大なコンロに囲まれて調理作業に徹するスタッフ。

炎天下のホーチミンでの台所作業でも、笑顔を絶やさないプロフェッショナリズム
涼しそうな表情で、笑顔を絶やさないオバサンを観ていると、ベテランの域を超え、もはやプロフェッショナリズムを感じてしまう。
バインセオは、極上の火加減で、注意深く調理されている。

極上の火加減
おそらく、バインセオのような単純なレシピは、素材による差はあまり生じにくいだろうから、どれくらい高度な火加減テクニックを保有しているかが、完成後のクオリティを大きく決定する要因になっているのだと思う。
三十分ほど待つと、ようやくバインセオが到着。

バインセオ
お箸を使って「入刀」してみると、表面がきわめてパリパリで薄っぺらいので、軽くお箸を押さえつけるだけでパキパキという心地よい音を立て、表面は割れてしまうのだった。
口に運ぶと、それはもう至福の味わいなのだが、店員さんから「ベトナム版ワサビだよ」と勧められてパインセオの中に三種類のハーブを包み込んで食べたら、一気に美味しくなった。

相変わらず山盛り

甘酸っぱいタレ
さらに、甘い透明のスープがあって、きわめてアッサリ味なのだが、不思議なことに、お好み焼きにソースをかけるか、かけないほどの大きな違いが出てくる。
もちろん、かけたほうがいいに決まっている。
看板メニューのレギュラーサイズのバインセオが90,000ドン、ビール20,000ドンだった。
「Yen Lan Quan」リーズナブルで激ウマ料理を楽しめる、地元ッ子にも大人気の一軒
バインセオに大満足した後、タンディン市場へ戻ってきた。
さっき、市場の外で、気になる屋台を見つけたのだ。
その店名をYen Lan Quanといい、まるで「ドンキホーテ」の店内みたいな賑やかさで、カラフルなメニューボードがあちこちに立てかけられている。

カラフルなメニューがびっしり
テーブルのフキ加減がいい加減な気がしたので、念のため、ウエットティッシュでふいてみたら、年末大掃除の雑巾みたいなことになった
地元ッ子に愛される「穴場グルメスポット」らしく、メニューの価格設定を見ても、コスパが非常に高い。

メニュー
同じテーブルに居た客の食べていた麺料理がおいしそうだったので、それを指差し注文。
料理が届くまで、ビールで一杯、できあがってしまおう。

さきにビールで一杯
ベトナム産のビールは水っぽく、けっこうガブガブ飲めてしまう「ミネラルウォーター」のような手軽さがあり、値段も数十円という嬉しさ。
店内のお客は、みんな手に箸を握ってスタンバイしている。

待ちきれない(1)

待ちきれない(2)
時計を見れば、もう夕方前になっているあたり、勤務先からの帰宅前におやつ感覚で食べにやって来ている人々なのだろうか。
注文した麺料理Bun This Nuongが届いた。

ブン・ティット・ヌン(Bun Thit Nuong)
分厚いベーコンを甘辛くカリッと揚げたような肉塊に、春巻きを半口サイズへ輪切りにしたものが投入されている。
普通、お箸で(一口サイズに)切り離すのに一苦労するほどモチモチすることが多いブン(麺)も、この店は、柔らかすぎず、モチモチし過ぎない、絶妙な食感であり、小分けしやすい、粘着度もちょうど良い。
決して高級レストランで贅沢なメニューを注文した訳でもないのだが、圧倒的幸福感を味わいながら、屋台を後にしたことは言うまでもない。
「Hoang Ty」野菜たっぷり豚肉の生春巻きが絶品の一軒
タンディン市場から、徒歩数分に、ひときわ立派なレストランがある。
Hoang Tyという生春巻きの専門店で、広々とした店内スペースがあり、大勢の店員を雇用しているあたり、地元で大人気の一軒なのだろう。

清潔で清涼感たっぷりの店内(二階)
店内は、清潔感たっぷり、空調もバッチリ。
ここで再度「仕切り直し」。

何度「仕切り直し」しているかカウントしなくなる
日本では、あまりビールを沢山飲むほうではない筆者も、ベトナムの薄味ビールだと、多少飲んでも悪酔いせず、むしろ適当な水分補給もできることから、進んでビールを注文してしまう。
注文したのがこちら、Banh Trang Phoi Suongという一品。

バイン・チャン・フォイ・スン(Banh Trang Phoi Suong)
薄くて温かい(ハム状の)豚肉を、大量の野菜とともに、生春巻きにくるめていただくという料理。
口の中で、温かい豚肉、香ばしいハーブ類が醸し出すハーモニーがたまらない。

具材を包む

甘辛いタレにつけていただく
なお、ここの生春巻きの生地は、ものすごいボリューム感がある。
正方形を二つ足したような長方形をしているのだが、生地の質がゴワゴワしているので、一枚まるまる使ってしまうと、具材を食べているのか生地を食べているのか、分からなくなってしまう。
正しい食べ方は、長方形の生地を二等分して(正方形の形状になる)、それに具材を挟むのが良かろう。
「Cuc Gach Quan」隠れ家的な超オシャンティの高級店
食べに食べまくって、最後にやってきたのがこちら、隠れ家的な雰囲気のある、超オシャンティな高級店Cuc Gach Quan。
事前予約制らしく、あいにく入店を断られそうになったが、このレストランで食べるためにホーチミンへやって来たということを身振り手振りジェスチャーで伝えることで、なんとか関門突破。

まるでホテルの一室みたいにオシャレなインテリア
念のため、事前予約しておいた方が確実だろう。
本日何回目の「仕切り直し」か、もはやカウントもせず、ベトナム産ビールを愛でる。

同じ値段のベトナム産ビールでも、場所が違うと、ますます美味しく感じる
オシャレなインテリアの店内で飲むと、同じ味のビールであっても、美味しさが数割増量されるという不思議。
まずは、ヘルシーに野菜サラダゴイ・ラウ・ムン(Goi Rau Muong)を注文。

ゴイ・ラウ・ムン(Goi Rau Muong)
冷たさの保たれた状態でテーブルへ届けられたせいか、シャキシャキ食感が強調されており、海老のプリプリ感との対比が楽しめるようになっている。
お次は、トロトロの白身魚料理、カー・コー・トー(Ca Kho To)。

カー・コー・トー(Ca Kho To)
きわめて脂身っぽい味わいだが、適度に引き締まっており、照り焼きのタレみたいに濃厚なタレがかかっている。
これを蒸しご飯にのせていただくのが、最高だった。

「おこげ」つきのライス
白身魚とご飯が同じスピードでなくなるようペース配分に気をつけたつもりだが、白身魚を先に完食してしまい、(しかたなく)最初は食べ残しておいた魚の皮を食べてみると、まるで肉のように弾力感と味わいがあり、これがご飯と相性バツグンだった。
かき卵入りの豆腐スープも注文。

かき卵入りの豆腐スープ
中に唐辛子が入っているのに気づかず、途中からやけに汗ばむのでオカシイと思って、ようやく気付いたのだった。
やけくそになって、全部食べてやったけど、結果的にビールを4本空けてしまった。
それにしても、かき卵のきめ細やかさがすごくて、卵は見えないくらい細い「線」にとかれており、スルスル食感がたまらない。
これに、トマトのさわやかな酸味が食欲を加速し、なおさらスッキリ、スルスル味わえるスープに仕上がっており、お見事としかいいようのない一品であった。
ハシゴした後は、バイクタクシーで「ワープ」
最後の一軒を出るときには、すっかり日が暮れ、心も胃袋も満ち足りて幸せ気分。
ホテルまでは5kmほど離れているけれど、そこは、物価の安いベトナム、心配ご無用。
バイクタクシーに股がれば、百円ほどで、あっという間にホテルへ「ワープ」して戻ることができるという、リアル竜宮城のような場所なのだから。