目次
「未開の地」バンナー上陸

BTSスクンビット線のバンナー(Bang Na)駅、プラットフォーム
BTS車両から一歩出ると、そこは、エアコンでキンキンに室内が冷えた車内とは打って変わって、灼熱地獄のプラットフォーム。
ここは、バンナー駅。
何十回と訪タイしているアジ吉にとっても、初下車だ。
バンコクの主要観光地から遠く離れているので、外国からやってきた観光客には、一生縁がない駅であろう。
「生活の足」としてBTSを必要とするはずの地元バンナーっ子でも、乗り降りする客の姿はまばら。バスやバイクと比べたら、BTS運賃がちょっと高くつくことも、無関係じゃないかも知れない。
外国人にもタイ人にも、さほど強く求められていないのに誕生した駅であるというのが、第一印象だった。

BTS駅の真正面という「一等地」なのに、このサビレ具合
改札口を出て、バンナーへ「上陸」し、周囲の街並を見渡したとき、やはりここは、BTSスクンビット線でも、最も重要度が低く、利用者数も少ない駅の一つなのだろうと思った。
そんな大都市バンコクの「へき地」、バンナーへやって来た理由とは?
バンナーへ来るきっかけとなった、カオサンでの会話
昨日の出来事だが、カオサンのツアー会社デスクにて、こんなやりとりをした。







悲しいかな、世界的に通用する観光都市として「ブランド地位」ができあがってしまったとたん、その土地の人々は、観光メニュー開発の努力をストップする傾向がある。
バンコクも例に漏れず、十年前と比べても、微動だにしない観光商品ラインナップ。

シーロムの路上弁当売りでさえ、日々工夫して、いろんな「商品メニュー」を開発しているのに…

よく観察すると、オモチャ屋に並ぶ「品物」だって、時代の技術を受けながら進化しているのに…
シーロムの路上弁当売りでさえ、客のハートをつかむために、創意工夫を盛り込んだ「商品メニュー」を日夜開発している。
あるいは、そこらへんのオモチャ屋だって、時代の流れに対応して、たとえばLEDでキラキラひかる玩具をとりあつかうようになっている。
それを考えると、「商品メニュー」を開拓する志がいっさい感じられない観光会社の怠惰ぶりは、目に余る。
「世界有数の観光大国になったから」と、気が大きくなって、あぐらをかいているのだ。

タイ人がつくってくれないなら、自分で新しいツアーを開発するしかない。
そしてアジ吉は、じっさいに、新しいツアーを開発してしまう。しかも、たった一時間で。
旅人、ときどき、ツアー開発企画担当
ゲストハウスに帰って、Google Mapと、にらめっこ。
何度となくリピートした街であっても、あるいは、そういう街だからこそ、Google Map をガン見すると新たな発見につながる。
引き延ばしたり、縮ませたり、Google Mapを「手あかまみれ」にするよう、いじくりまくって三十分、なにやら気になる地形を発見。

注目したのは、ココ。赤枠部分のズーム図は、次画像へ

なにやら「島」っぽいスポット発見!

一見すると陸つながりだが、よく見ると、ほそ〜い川が走る。360°周囲を切り取られた「島」である
チャオプラヤ川に切り取られるようなかんじで、「中洲」とも「島」とも解釈できる土地がある。
バンクラチャオ(Bang Krachao)というエリアらしい。
「東京訪問 + 名古屋訪問」よりも多い回数、バンコクへ通いつづけているのに、いちども近寄ったことさえなかったエリアがあったとは。しかも、Google Mapで見れば、こんな目立つところに、デカデカと…


Google Mapをさらに調べると、ちょうど良いサイズの「周回道路」がある。サイクリングしたら、楽しそう

なにやら「植物園」という建物も目に入る。これは、なんとなく「アタリ」の予感がする隠れ家観光スポット
旅の満足度をたかめてくれそうな「周回道路」や、「植物園」を発見し、Google Mapを見つめながら、ゲストハウスでひとり興奮するアジ吉。
アジ吉のなかで、好奇心という名の「導火線」に火が着いた。
本邦初公開!? バンクラチャオへの詳細アクセス情報!!
この「島」へ行くには、BTSに乗って、バンナー駅で下車、そこからボート乗り場へ行けばよさそうだった。

行き方①:バンコク中心地から、BTSでバンナーへ(片道の交通費、約60THB)

行き方②:バンナー駅から、バイクタクシーで、ボート乗り場へ(片道の交通費、約20THB)

行き方③:ボート乗り場から、対岸へ(片道の交通費、約4THB)
観光ツアー「商品」として、ツアー会社の店頭にて販売されることがなく、今後も販売される気配がないバンクラチャオ。
果たして、訪問してみたところで、楽しめる場所なのか?
期待半分、不安半分という、複雑な気持ちでボート乗り場へ。
バンナーから、ボート経由で、チャオプラヤ川の対岸「バンクラチャオ」へ

寺、高層ビル、ドブ川。きわめてバンコクらしい風景
バンナー駅から歩くと、そこには、典型的なバンコクの下町風景が広がる。
そこからバイクタクシーに股がって、ボート乗り場へやって来た。
ボートに乗ってチャオプラヤ川の対岸に渡り、Google Mapで見つけた「島」を訪問するのだ。

ボート乗り場のワンコ
タイは暖かいぶん眠たくなりやすいのか?
ボート乗り場にて、アクビがとまらないワンコ発見。

ボートは十五分おきくらいに発着している

船着場のようす

ボートがやってきた。降りる人(とバイク)が先というルールは日本と同じ

慣れた様子で、テンポ良く乗り込んでいく人々
人、バイクどちらが先に船に乗るかのルールはないらしい。
乗れる人、乗れるバイクから順次というカオス方式ながら、地元民は大変テンポよく乗り降りしている。
運賃、わずか四バーツ(約十三円)だと言うが、いつ清算するかの仕組みが、いまいちよく分からない。
乗船時間も、十分たらずと、あっという間の、水上の旅だ。

一瞬で終わってしまう「水上の旅」だが、旅行感は確実に高まった

こっちの船着場にも、ワンコ
第一村人ならぬ、第一ワンコ。
おとなしくて、人懐っこい。番犬適性ゼロである。

下車した船着場に「料金ゲート」があった
ボートに乗っても料金を徴収されなかったので、「いつ払うの?」って疑問に思っていた。
対岸の船着場を出るところに、ちゃっかり「料金ゲート」。
四バーツを支払って料金ゲートを出て、真っ先に気になったのは、「周回道路」を一周するためのアシ。予約等、いっさい事前準備をしてこなかったが、はたして無事に移動手段をゲットできるのか?
地図上では「島」と書かれない島、一周するにはチャリが最適だが…

レンタルチャリをげっと。一日借りて、五十バーツ(約百五十円)。
ガンバれば、徒歩で一周できるサイズの「島」ではある。
だが、それは距離だけを考えたときのハナシであって、バンコクの炎天下では、たちまち、暑さにやられてしまうだろう。
事前予約などしてこなかったが、バンクラチャオの玄関口には、レンタルチャリ屋が営業し、数多くの在庫があった。
いちばん状態が良さそうな車体を選び、マイレンタルチャリをゲット。

やっぱり、安定の日本製
借りたとき、なんとなくそんな予感はしていたが、車体に貼られていたラベルによって、日本から来たチャリだと判明。
パクられたチャリかも知れない。あるいは、特定オーナーに仕え、役割を全うしたチャリかも知れない。「前世」を知る由もないが、異国の地でバッタリ出くわした偶然に、「縁」のようなものを感じざるにはいられなかった。

自転車に語りかけて、「いざ出発!」とペダルを漕ぎ出したものの、三メートル運転しただけで、店に戻った。
タイヤがフニャフニャで、このまま行けばパンクしかねないと思ったのだ。

「クレーム」を受け、ちょっとバツが悪そうなおっちゃん
クレームを言うと、バツが悪そうに、空気入れをする店のオッチャン。
問題があったのはタイヤ空気圧だけでなく、前輪後輪とも、ブレーキがないのと同然の整備状態だった。
ハンドルをぎゅっと握ったら、「キキキキキキーーー」という、この世のものと思えないヒドイ音を五秒ほど立てて、「仕方なしに」しぶしぶ停車する、ふてぶてしい系チャリだった。
別の車体と交換してもらいたかったが、他のはもっと論外っぽかったので、ここで妥協。
「このなかでは、最高コンディションの車体」とおもって選んだチャリが、このありさま。不安半分・期待半分で上陸したバンクラチャオ、いまでは、不安の割合がググっと増していた。
果たして、無事に観光をエンジョイできるのか?
オンボロチャリで「怪走」!? バンクラチャオの周回道路

「島」の玄関口で、廃品同然のオンボロチャリを貸し出されるという洗礼を受けた。
このチャリが、果たして、「島」を一周するまで、崩壊することなく持ちこたえてくれるかどうかは、未知数。
とりあえず、レンタルチャリ屋の真正面にあった仏さまに、お祈りしておく。

「チャリが、もちこたえますように」仏さまにリクエストしとく

意外としっかり整備・清掃されていた島内道路
ペダルを漕ぎ出してみると、意外や意外、島内はしっかり道路が整備されている。
離島の道路にありがちな、路面が草や枯葉で覆い尽くされていることもなく、きれいに清掃されている。

自転車二台がかちあったら、お互い降りて、手で押さないと、すれちがえない幅の道路も
たまに、チャリ同士ですら、すれ違えないような、幅狭の道路がある。
ここはまだ良いが、両脇にガードレールがなくて、ちょっとバランスを崩せばドブ川に落ちてしまうような場所もあった。
そういう「危険ルート」も、ぜひ写真に撮りたかったが、スマホ片手に写真を撮って注意散漫になると、たちまちドブ川へチャリごと落ちそうで、撮れなかった。

「こんなところに、だれか住んでるの?」というような場所に、郵便ポストが

あまりにもオープンすぎる「民家」?

ここは本当に、大都会バンコク?
突如として、眼前にひろがるジャングル的な風景。
この風景だけ見ていると、ここが大都市バンコクということを忘れそうになってしまう。
実際、このバンクラチャオ地区(島)、大都市バンコクにありながら、ジャングルのように自然豊かな環境を有し、バンコクへフレッシュな酸素を供給する役割を果たしていることから ”Green Lung of Bangkok” との呼び名も持つようである。
走行中、たえまなく上下左右ガタンガタンふるえるチャリとも、すこしずつ「波長」が合ってきて、振動がBGMのような存在感に。
目の前には、昨日、Google Mapで見つけたとおぼしき「植物園」が見えてきた。
ラピュタ顔負けの「廃墟感」ムンムン、バンクラチャオの植物園

島内には「植物園」

室内は荒れ放題、「りあるラピュタ」状態
島内には「植物園」があったけれど、メンテされておらず、ジャングル状態。
敷地内には「温室」まであったが、雑草ぼうぼう、窓ガラスは割れてしまっており、「りあるラピュタ」状態。
そもそも論として、まず、常夏の国なのに、温室なんて不要な気がする。
けれど、ここはタイ、万事あまり気にしてはいけない。

「木のトンネル」をチャリでくぐりぬける
「植物園」を通りすぎて、木のトンネルをサイクリング。
たまに、バンクラチャオっ子とおぼしき住民が、植物園の敷地内をジョギングしているのとすれ違う。

「野良」ジャックフルーツ。誰も収穫しないから、実がそのまま放置されている?
そこらへんの木に育っていた、「野良」ジャックフルーツ。
だれも収穫する人がいないのか、かなり巨大なのに、まだ刈り取られていない。
こんなのが頭の上に落ちてきたら、まず即死するレベル。

青空に、赤い屋根が、よく映える休憩小屋

観光地にありがちな「人だかり」とは無縁の、バンクラチャオ
まだ観光地化されておらず、タイ人の友達に聞いても、知らなかった場所だけある。
バンクラチャオは、どこへ行っても静か。
人、いなさ過ぎ。
アジア有数の大都会・バンコクの中にも、こんなに静かで、豊かな自然も残っていたことが驚き。
バンコク旅行のベテランでも、こんな素晴らしいエリアを知らないままでいる人も、けっして少なくないと思う。
植物園を中心とする、自然ゆたかな一帯のサイクリングを満喫し終えると、ぽつんぽつんと民家が立ち並ぶ集落エリアに。
バンクラチャオっ子の住む、摩訶不思議な集落の様子とは?
バンクラチャオの集落、市場を訪問

島内で見つけた「信号」
島内には「信号」のようなものもあったが、見つかりにくい場所に設置されており、ヤル気なさげに、黄色ランプがチカチカ点灯しているだけであった。
ガチの信号というよりかは、注意喚起を促すための簡易ツールみたいな位置付けに思われた。

二階を見上げて、しょーもないホラー映画よりビビった
廃墟のように見えるが、中には人が住んでいる民家。
二階にあるマネキン人形が、あまりにも不気味すぎて、iPhone カメラを連射していたら、民家の住民が笑っていた。
このマネキンを「家族」として受け入れる度量の広さを持つなんて、バンクラチャオっ子、すごすぎる。

バンクラチャオの衣服屋さん

バンクラチャオの市場、島内で一番賑やかなスポット

なぜか、島内で売られているバナナは真緑のものばかり

見たこともないフルーツ?を発見
気になる、一日の家計簿は?
市場へやって来たところで、周回道路をほぼ一周、「一筆書き」の始点と終点がほぼつながる状態となった。
わりとこじんまりした「島」だと思ってやってきたが、ふだんの運動不足もあって、疲労度合いの「満腹感」がハンパない。

直射日光を受けながら、汗だくになって、島一周「一筆書き」の完成を目指す
市場から、さらに十分ほどチャリを走らせると、本日のスタート地点でもあるレンタルチャリ屋に到着。
最初はどうなるかと不安ではあったし、道中、ギシギシ、ギーギー、いろいろな小言(金属音)が口うるさいところもあったが、故障せずにガンバってくれた「相棒」を返却完了。
レンタルチャリ屋のおっちゃんは、無料で、冷え冷えのミレラルウォーターを進呈してくれた。嬉しいサービス。
バンクラチャオでは、(植物園をふくめて)どこもかも入場料無料だったので、出費と言えば、交通費のみ。
いろんな交通手段を乗り換えたが、結局、216THB(往復)、つまり約七百五十円が合計出費となった。
- BTS ... 59 THB x 2
- バイクタクシー ... 20 THB x 2
- ボート ... 4 THB x 2
- レンタルチャリ ... 50 THB
日本だと、「千円」では、ちょっといいランチを食べたらおしまい。次の日には、「味」が記憶に残っていないかも知れない。
同じ「千円」でも、ここバンコクだと、一生モンの思い出を手に入れることができるのだ。