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はじめに:日本と、そのIT現場をとりまく環境変化
こんにちは。
規模・スピードともに「開国」と言っても過言ではない環境変化が、日本にも、そのIT現場にも、やってきています。
どういった環境変化か、見てみましょう。
【インバウンド、英語の教科化】日本は英語ブーム
近年、訪日外国人数が過去最高記録を更新しています。
JTB総合研究所のグラフでは、ここ直近五年ほどで、訪日外国人数が急上昇しているのが確認できます。
年別訪日外国人数の推移(1964年以降) / JTB総合研究所資料より
訪日外国人数の増加に加え、小学校では英語の教科化が試行レベルで推進されています。
世間で英語ブームが加速されることはあっても、下火になることはないでしょう。
英語が日本へ「上陸」した
現時点では、「英語発展途上国」の日本。
十年後、二十年後、三十年後、と将来を見据えたとき、国民全体への英語の浸透度は、ゆるやかに高まっていくものと考えるのが自然です。
【少子高齢化、海外リソース】IT現場に押し寄せるもの
独立行政法人・情報処理推進機構による『IT人材白書2018』には、情報システム開発の現場では、人手不足が懸念される状況との報告がありました。
日本歴史上、誰もが経験したことのない、少子高齢化による影響もあるでしょう。
情報システム開発プロジェクトでは、人手不足を補うために、「ヒト」や「モノ」を海外リソースに依存する動きが加速することは避けられません。
その具体例は、枚挙にはいとまがないのですが、分かりやすいものを二つあげておきます。
- 若い労働人口にボリュームがあり、人件費も安価な新興国から「ヒト」リソースを外部調達
⇒海外ITエンジニアがプロジェクトに参画することになれば、英語が「公用語」となり、英語の品質が、プロジェクトの成否を大きく左右する一要因にもなるでしょう - クラウドやパッケージといった「モノ」リソースを外部調達
⇒海外から商品を購入するケースも増え、販売元への問合せに英語が必要となることもあります。また、マニュアルが英語でしか提供されていないケースも少なくありません
グローバル化の波が、「対岸の出来事」ではない時代に
こういった背景を受け、「普通のITエンジニア」にも海外との接点が生まれる場面は多く、情報システム開発の現場で、英語の必要性が確実に高まっているのです。
たとえ、今までは日本国内で完結するプロジェクトが主流だった企業でも、ある日突然、海外リソースの採用方針が打ち出されないとも限りません。
二十代、三十代の現役ITエンジニアは「被害者」。でも、逃げ切れないかも
英語ブームが加速し、IT現場でも英語の必要性は高まるばかり。
一方、IT現場の主体を担う二十代、三十代のITエンジニアは、「読み書き偏重」の英語教育を受けて育った世代です。
自助努力で学校教育の弊害を克服する「被害者」
社会に出て求められる、リスニングやスピーキング能力を学校で教えてもらえなかった、二十代、三十代のITエンジニア。
ある意味、学校英語教育の「被害者」とも言えるでしょう。
学校英語教育の「被害者」
彼ら彼女らは、現場の最前線で実務に追われる中、NHKラジオ英会話に挑戦したり、通勤電車でTOEICの勉強をしたり、必死で英語を学ぶ自助努力はします。
学校英語教育が悪かったのに、その尻拭いを、個人がしているという構図です。
あまりにもお粗末な「情シス英語」学習インフラ
NHKラジオ英会話やTOEICを取り入れた勉強にも意味はあるのですが、世間には、情報システム開発現場でその日から使えるような英語表現技術を教えてくれる書籍や学校はありません。
そもそも、考えてみれば当然なのですが、英会話講師は厳しい職業です。
学校経営が苦しい中、英会話講師は、同僚のネイティブ講師と同じ土俵で競争しなければなりません。いちおう会社員の身分でありながらも、講師ひとりの授業運営能力が、まるで会社の決算数値のように、「受講生アンケート」というシビアな数字で評価される世界です。組織全体で成果を出して行くサラリーマン以上に、個人の「成績」が浮き彫りになる世界です。
さまざまな職業でも、英会話講師は厳しい凝集
「情シス英語」の学習者側にしてみれば、英語とIT実務の両方に精通した人から、情報システム開発の現場でその日から役立つ英語表現技術を学ぶことができればベストなのですが、そういった人材であれば、求人数も収入も(英会話講師より)はるかに良いIT業界で食っていくという選択をするのは当然でしょう。
世間一般用語ではありません。筆者による造語(?)です。このブログでは、おそらく、今後もちらほら登場する語句になると思います。具体的には、以下の三要件を備えた英語を指します。
- 【文化に依存しない英語】日本人独自の考え方や、日本語のあいまいさを排除した上で、どんな国籍のプロジェクトメンバーが読んでも解釈が一つに定まるよう、短く、易しく表現された英語
- 【機械にも理解できる英語】Google Translateに訳させても、理解可能な日本語が得られる、翻訳機械にとっても分かりやすい「親切」な英語
- 【専門知識ゼロでも分かる英語】IT専門用語や、ユーザ業務用語は、誰でも分かる単語で言い換え、その単語を、プロジェクトが終わるまで一貫して使い続ける、ブレない英語
「情シス英語」力を高めるには、世間一般的な意味での英語力を身につけた上で、更なる訓練が必要です。英語ネイティブスピーカーであっても、この訓練は必要です。
結果として、英会話学校は「ビジネス英語」という、万人ウケする曖昧なジャンルで生徒を募集し、どれくらいのビジネス経験があるか定かではないネイティブ講師が英語を教えているような状況です。
ネイティブ講師でも、勉強しなければ「情シス英語」を使えるようにはならない
ひとつ、見落としがちな事実があります。
たとえ、「英語のプロ」と言えるネイティブ講師でも、自ら情報システム開発を経験したことがない限り、【本当に情シス現場で役立つ英語表現とは何か】を知らないということです。そもそも人間って、自分が知らないものは教えられないんですよ。日本人(もちろん日本語ペラペラ)であっても、医学知識ゼロだと、外科手術の手順を説明できませんよね。
英語教育の現場で起きる「ミスマッチ」
このような背景もあって、システム要件を的確に表現したり、外国人と論理的に議論を重ねたりする「情シス英語」スキルは、山ほどの努力や失敗を経て、一部の人間だけがようやくゲットできるシロモノのため、特定個人によって保有されることとなります。
また、特定個人に保有された「情シス英語」スキルは、特定企業内で発揮されるにとどまり、公の場でシェアされることはありませんでした。
公の場ではシェアされてこなかった
プロジェクト失敗の要因にもなる、日本人の英語力
お粗末すぎる「情シス英語」学習インフラを一生懸命に活用して、TOEICスコアも上昇し、なんとなく英語が分かったつもりになったITエンジニアが、情報システム開発の現場で、海外プロジェクトの主担当としてブイブイいわせ始めます。
一般的な英語力と、「情シス英語」力が、まったく別物ということも知らないまま。
たとえ、「英語のプロ」英語ネイティブであっても、情報システム開発の現場経験がなければ、「情シス英語」力はゼロと等しいんです。それが、「英語の初心者」日本人だと、どうでしょうか。ある意味、日本人の「情シス英語」力はゼロどころか、マイナスかも知れません。
分かっていないものが、分かったつもりになるのは一番おそろしい
そんな日本人がハンドリングする海外プロジェクトに起きることは、何でしょうか。プロジェクト座礁です。
いつまでも日本語発想に引きずられた「直訳」で、本来、「論理的な言語」であるはずの英語で表現されているのに、ゼンゼン論理的ではない英語に、海外ITエンジニアは戸惑うでしょう。
せっかく海外リソースを採用したものの、プロジェクト運営がにっちもさっちも行かなくなり、結局は日本人を大量投入して、大赤字を出しながらプロジェクトを完了させたという例は、星の数ほどあるのでしょう。
公の場で語られないだけであって。
おわりに
エラそうなこと、不安をあおること、いっぱい書き散らかしましたが、かくいう私の「情シス英語」能力も、【パーフェクト】と言うにはほど遠いレベルです。
そんな私ですが、数十回の海外長期(数ヶ月単位)出張、数年間の海外駐在を経験した結果、TOEICをいつ準備なしの状態で受験しても、九百点を下回ることはない英語力が身に付きました。
自分が日頃、海外サイトの技術文献翻訳や、海外SEとの交流を通じて学んだことをブログ記事として情報発信し、「情シス英語」の情報を求めている方々と共有できればと思い、今後も記事を投稿しようと思います。
よろしくおねがいします。