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はじめに:「あなたの経験と考えに基づいて」という、国家試験なのにアバウトな設問
こんにちは。
いきなりですが、情報処理技術者試験(高度区分)の午後II問題で、いつも見る、アレ。

「あなたの経験と考えに基づいて」
「あなたの経験と考えに基づいて」って、国家試験にしては(?)すごいアバウトな表現ですね。
この言葉を額面通りに受け取ると、まるで、経験がない人には、答案を作成する資格がないようにも感じられてしまう書きっぷりです。
- 経験がなかったら、論文を書けないのか?
- 経験がなかったら、合格できないのか?
答えとしては、両方NOです(インターネット上には、経験なしでも合格した方の体験記が多数アップされていますね)。
ただし、合格者はみんな「超えてはいけない境界線」を明確に理解した上で、論文の答案を作成しています。
本記事では、以下3区分へ連続一発合格した筆者のノウハウも交えながら、合格点をもらえる論文の【共通点】を、あぶり出したいと思います。
- ITストラテジスト
- システム監査技術者
- プロジェクトマネージャ
午後IIの論文で合格点をもらえる受験者が守っている「暗黙ルール」を詳解
『情報処理教科書 プロジェクトマネージャ』の筆者として有名な「ミヨちゃん」こと、三好康之さんをご存知ですか?
筆者が情報処理技術者試験を受けるようになったのも、実は、三好さんの著書から影響を受けてのことです。
まずは、三好さんの逸話をお借りする形で、スタートしたいと思います。
「超えてはいけない境界線」とは?
三好さんは、参考書の執筆や、論文添削の仕事もされつつ、ご自身で情報処理技術者試験を受験されています。
いわば、その道の「プロ」であり、普通に受験したら合格して当然と言えるスペックの持ち主ですが、まるでYouTuberのように面白いチャレンジをされています。
2015年のチャレンジは、情報処理技術者試験の答案で「未経験である」とストレートに書いたらどうなるかというものでした。
論文試験ではA評価しかもらったことのない「22勝0敗」だった三好さんですが、なんと結果は不合格(しかもD判定)だったと、ブログで報告されています:
三好さんが体を張った貴重なチャレンジから分かったことは、論文の答案作成時、あからさまに「未経験」と書いたら絶対ダメという教訓です。
たとえ未経験の人でも、経験したかのような書きっぷりで答案を作成することが、合格には絶対必要だということです。
情報処理技術者試験の論文が求める「経験と考え」について
実際の経験有無に関わらず「経験」をアピールしなければならないことは分かりましたが、そもそも、情報処理技術者試験における「経験」と「考え」って何でしょうか。
筆者の中では、以下のように理解しています。
- 経験 …… ITエンジニアとしての日頃業務で、自らの手足や頭を動かして得られた知見(英語で言うところの、Lesson = 教訓に近い)
- 考え …… 情報処理技術者試験に向けて勉強する中で獲得した知識。過去問を解いたり、参考書を読んだりして得られる知識。先輩や同僚など、他者から教えてもらった知識も、こちらに該当すると思います(英語で言うところの、Study = 勉強に近い)
「経験」は、自分が直接体験したことなので、まるで手にとるように理解できるし、相手へ説明することも可能です。
「考え」は、ある意味、試験のために「背伸びして」身につけた知識であるため、断片的や表面的な理解も含まれ、完全には整理されていない状態です。
分かりやすかったので、ヒュー・マクラウドさんの図を引用させてもらいます。

Knowldge vs. Experience
「Knowledge」を「考え」に、「Experience」を「経験」に、それぞれ読み替えていただければ大丈夫です。
「考え」は、関連性が弱く、もろい構造をしているのに対し、「経験」は、揺るぎないガッチリとした構造ができていることを一目で理解できるイラストですね。
「考え」に偏りすぎると、連続性のないアウトプットになる一方、「経験」に偏りすぎると、いくつかの知識を見落としたアウトプットになりかねません。
以上のことを踏まえると、情報処理技術者試験が受験者に求めているのは、「経験」だけでもなく、「考え」だけでもなく、その両方をうまく融合させてアウトプットを生み出す総合力であることを推測するのは、難しくありません。
「経験」と「考え」で総合的に答案を作成するには?
経験(あり or なし)、考え(あり or なし)の総パターンは、4通り。
すべての受験者は、第1〜第4象限のいずれかへ分類されると思います。

「経験」と「考え」の関係
ここで重要なのは、試験勉強や、(ITエンジニアとしての)日常業務への取り組み次第では、象限間を移動することがある点です。
たとえば、学生さん(「経験」も「考え」もない)が、市販参考書を使って「考え」を仕入れたら、第3象限から第4象限へ、アルバイトでソフトウェア開発会社で働いて「経験」をすると、第4象限から第1象限へ近づくでしょう。
以下では、象限ごとに、受験者が陥りがちなポイントと、改善指針を示したいと思います。
第1象限(「経験」あり、「考え」あり)にいる受験者の課題
業務経験を積まれ、情報処理技術者試験の勉強も、ある程度進んだ方。
この象限にいる方は、実務経験がジャマをすることがあることを留意しましょう。
過去の実務経験で得た知識やプライドに縛られすぎると、情報処理技術者試験の出題者側が意図する「正答」から離れていってしまうことが多分にあります。
「経験」と、(過去問や参考書を通じて得られた)「考え」がかち合ったときは、いったん「考え」を優先させる心の広さを持ちましょう。
具体的には、午後IIの答案を作成中、題意からズレそうになっていないか、5分置きくらいに答案と問題文を見比べることです。
あまり頻繁にやりすぎると答案を作成する手が止まってしまいますし、あまり間隔を空けてしまうと、題意からズレていたのに気づくのが遅れて、軌道修正できなくなってしまうこともあるため、5分間隔くらいがちょうどいいです。
いったん合格してしまえばこっちのものです ------ 合格するまでの期間限定でも構わないので、情報処理技術者試験の出題者に「共感」するクセをつけ、納得できない「講評」についても、教科書だと思って、そのまま受け入れるようにしましょう
第2象限(「経験」あり、「考え」なし)にいる受験者の課題
実務経験を積まれ、情報処理技術者試験にこれからチャレンジしようとする方。
基本的な「落とし穴」は、第1象限と共通しています。
第2象限の受験者は、ご自身が実務経験を持っている領域を過信する傾向があるため、実務経験のない領域と同様、白紙の気持ちに戻って勉強する謙虚さを持つようにしましょう。
第3象限(「経験」なし、「考え」なし)にいる受験者の課題
実務経験がなく、情報処理技術者試験の勉強も、スタートしたばかりの方。
第3象限にいる方は、二通りの「進化」があります。
- 第3象限→第2象限 …… 日常業務を通じて実務経験を積む
- 第3象限→第4象限 …… 過去問や参考書を通じて知識を仕入れる
いずれのパターンで進化されるにせよ、この象限の方には、まず、ご自身と一番相性の良い試験区分を見定めることに集中されることをオススメします。
情報処理技術者試験(高度区分)には、5区分の論文系があるため、ご自身の得意・不得意や、興味の強弱を根拠として、どれが一番自分にマッチしているかを適切にジャッジしましょう。
- ITストラテジスト …… 企業における、情報システム活用推進の最高ポジションに近い業務をしている方(あるいは、興味を持たれている方)と、相性が良いです。IT技術に詳しい必要はないため、異業種(医師や公認会計士)から合格する人も出ている区分です
- システム監査技術者 …… かなり特殊な区分なので、一つ目の高度区分(論文系)としてチャレンジするのは避けた方がよいです。ただし、監査法人へ勤務していた経験を持つ方にとっては、取り組みやすい区分と言えます
- プロジェクトマネージャ …… 工数、コスト、品質などの管理責任を負うポジションに近い業務をしている方(あるいは、興味を持たれている方)と、相性が良いです。IT業務についての試験ではあるが、すでに管理職ポジションを経験されている方であれば、一番取っつきやすい区分です
- ITサービスマネージャ …… ユーザサポート窓口など、システム運用に近い業務に携わっている方(あるいは、興味を持たれている方)と、相性が良いです。ユーザサポートの業務がなくとも、外注として、ユーザ企業へ常駐しているエンジニアであれば、取っつきやすい区分と言えます
- システムアーキテクト …… 論文系の5区分では、最も技術者サイドの出題内容。日頃から技術系のことを中心にやっている方(あるいは、興味を持たれている方)と、相性が良いです。応用情報や、技術系の高度区分(ネットワークスペシャリスト、データベーススペシャリスト)を取得したばかりの場合、一番取っつきやすい区分です
ここでの判断を誤らないことが、第3象限にいる方の、最重要課題です。
ご自身と相性のよくない区分を選んでしまい、かつ、「経験」も「考え」もない状態からスタートするのでは、途中で「壁」とぶつかり、最後まで完走し切れない恐れがあります。
第4象限(「経験」なし、「考え」あり)にいる受験者の課題
実務経験はないが、情報処理技術者試験の勉強が、かなり進んでいる方。
第4象限にいる方は、人数的にもかなり多いと思われますが、「経験」のない領域について、いかに「当事者」の立場として振る舞えるようになるかで苦しまれることでしょう。
そのような方にとって心強い味方になるのが、問題文。
午後IIの過去問に目を通すと、次のようなことが挙げられるといった書きっぷりが多いことに気づくでしょう。

ITストラテジスト午後II(平成30年度・問1)
「事例」として箇条書きされている部分は、「経験」のない受験者へ、天から降りてきた蜘蛛の糸のようなものです。
これらを出題者からの「助け舟」だと解釈し、固有名詞を当てはめて、一つの「ストーリー」を展開できるように特訓することが一番効果的です。
謙虚な気持ちで問題文を読み取り、出題者の「誘導」にうまく乗れるようになることが、重要です。
まとめ:超ザックリと書けば、合格に必要なのは、「経験」と「考え」のバランス調整における、出題者への「忖度」
以上、「経験」と「考え」を基軸として、情報処理技術者試験・午後IIの論文で合格点をもらうための「暗黙ルール」について、考察しました。
1,000字くらいでサクッと書き切ろうと思っていた割りに、いったん書き出すとストップできず、結局5,000字オーバーする記事になってしまいました。
超簡単にまとめると、以下の通り。
- たとえ未経験者であっても、答案上では、未経験者であることを絶対カミングアウトしてはならない
- 「経験」は、自らの手足や頭を動かして、血肉として身に付いた知恵のこと。有機的につながりを持った記憶のため、忘れにくい
- 「考え」は、過去問や参考書への取り組みを通じて得られた知識のこと。断片的な記憶のため、忘れやすく、応用も効かせづらい
- 午後II・論文で合格点をもらうには、「経験」と「考え」を両方おりまぜることが必要
- 「経験」と「考え」がかちあった場合には、出題者への「忖度」として、自我を押し殺して、答案を作成する。あくまでも、情報処理技術者試験の主催側カリキュラム(IPAホームページ)の見解や資料を尊重する立場を取る
情報処理技術者試験の午後II・論文で苦戦されている方は大変多いので、今後、論文系の記事を充実させていきたいと思います。
情報処理技術者試験への取り組みを通じて「文章力」を高めることは、試験合格へ貢献するにとどまらず、日常生活におけるあらゆる場面において、ご自身を利することにもなり、先が見えない現代社会としては、最高とも言える自己投資の一つでしょう。