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はじめに:ひさびさに「アタリ」の台湾特集誌が出たという直感でポチる
空前絶後の台湾ブームに助けられて、最近では、年に何冊も台湾特集の雑誌が販売されるようになっている。
台湾ファンとしては非常に歓迎すべき傾向である一方、(料理や風景の写真でごまかして)内容の薄い台湾本が多数で回っているというのも現実である。
つい先週、歴史誌「時空旅人」から台湾特集が発売された。
![時空旅人 2018年9月号 Vol.45 [ 台湾 見聞録 ー 日本が残した足跡を訪ねて ー]](http://asianonanika.com/wp-content/uploads/2018/08/review-asin-b07dq3wpzb.jpg)
時空旅人 2018年9月号 Vol.45 [ 台湾 見聞録 ー 日本が残した足跡を訪ねて ー]
表紙には、台湾のレトロな街並みを背景に、黄色いフォントで『日本人が残した足跡を訪ねて 台湾 見聞録』と印字されている。
表紙上部にある【戦前から現代に至る激動の台湾史】というタイトルにグッと来たし、その台湾史を日台ストーリを通して描くという企画にクラッとした。
Amazonで目次を確認してみたら、これは相当期待できるという【直感】がし、なおかつ、すぐに「在庫切れ」になる雑誌だという【予感】がしたので、即効ポチった。
結果、840円(税込)というコスパが信じられないほど、内容を興味深く読ませていただいたので、そのレビューをかねて、情報発信したい。
【時空旅人 2018年9月号 台湾 見聞録】読書レビュー
まず本書は、観光ガイドでもなく、特定レストランのレビューを行うグルメ本でもない。
「時空旅人」自体が歴史誌らしいので、購入前は「小難しい歴史本の類いかも……」という不安もあった。
ちなみに、アジ吉は「時空旅人」という雑誌を買うのが初めてだった。学生時代、【世界史B】で留年しかけたことがトラウマになっており、正直、いくら大好きな台湾コンテンツといえど、歴史系の書物を手に取ることは、精神的ハードルが高かった。コトバは悪いが、いわば、台湾との「抱き合わせ商法」によって歴史誌に手を出すキッカケとなったというのが、正直なところである。
期待半分&不安半分のもと、自宅に届いたものをパラパラめくると、たしかに「歴史」メインのコンテンツではあるが、従来のガチな歴史本ではなく、むしろもっと気軽に、学生時代、歴史が苦手だった人(アジ吉も)でも、【短編小説を読むように】リラックスしながら読める類いの「一冊」であるというのが第一印象だ。
上永哲矢、野田伊豆守、片倉夫妻の作家4名が書き下ろす、たっぷり贅沢100ページ(全ページフルカラー)。
さすがはプロ作家。よくこれだけ書くネタがあるものだと感服するボリュームであるが、その内容をレビューしたい。
本書の構成スタイル
ガチな歴史本であれば、「時間軸」に沿って、昔から近代の出来事をつらつら書くスタイルなのだと思う。
「ユルい」歴史本を目指した本書は、「土地軸」。
台南に始まり、高雄、屏東、台北、新北、基隆、宜蘭、花蓮、そして金門島に至まで9つの土地を順にめぐり、各土地にゆかりのある日本人や、日本との関係を象徴する出来事を語るスタイルが採られている。どこから読み進めても内容理解できるので、まずは、自分が訪問したことがあったり、興味を持ったたりした都市から読み進めてみるのも一案であろう。
各地6ページほどのコンパクトな紙面でまとめられているので、飽きが来る前に、「次の街」のコンテンツがやってくる。
ふだん読書習慣のないアジ吉でも、集中力を切らせることなく、最後の一ページまで一気に読み終えてしまえる構成スタイルだった。
日台ストーリの描かれ方
個性もバラバラな、9つの土地一つひとつについて、「街」ー「歴史」ー「インタビュー」という三つの視点を織り交ぜて、「日台ストーリ」が立体的に表現されている。
「街」では、今日観光客としてにぎわう史跡や観光名所にスポットライトを当てている。本書では「特集誌」という出版形態の強みをいかし、一つひとつの「街の紹介」に十分なページ数を割き、通常のガイドブックより一段階、二段階も踏み込んで記述している。ガイドブックだと、観光地・グルメ・ホテルなど、いろんな情報を掲載しないといけないが、本書は「街の紹介」以外をガッツリ削ぎ落しているため、なせたワザであると思う。きっと、これまで何度となく訪れたことのある観光名所でも、知らなかった情報がザックザク見つかるだろう。
「歴史」では、日本と台湾という二国、しかも、戦前から現代までという、(国、時代で)二重に絞り込んだ記述となっている。「世界史」の教科書のような、ごちゃごちゃした感じはないため、本書のストーリ展開は、まるで短編小説を読んでいるかのように、すっきりシンプル。歴史アレルギがある人にでも、優しい内容に、仕上がっている。いちばん嬉しかったのは、今日の台湾観光と関連づけるのに十分な「具体性」を伴ったコンテンツであること。本書の内容を「思い出し」ながら観光をすると、より味わい深い台湾旅行になると思う。
そして「人」では、日本統治時代に日本語教育を受けた高齢者が登場する。彼ら・彼女らの「生の声」に基づくコンテンツによって、日台ストーリが「補強」され、一つひとつの記事がますます説得力のあるコンテンツに仕上がっている。悲しいことにも、こういうインタビュースタイルの記事が作成できるのも、日本語教育世代がご存命のうちではある。時間制限があるからこそ、現役の作家先生たちには、意欲的に書いて欲しい。
「永久保存版資料」としての価値もある、【目から鱗】のコラム
全部で5つ収録されているコラムも興味深く読ませてもらった。
ここでは、アジ吉が特に気に入ったコラム2点をご紹介する。
台湾総督府の設置から50年間に渡って送り出された19人の総督が紹介されている。
「個人」のストーリがてんこ盛りで興味深い。歴史の教科書だとマクロな視点になり、「個人」がどう台湾と向き合ったかのストーリが希薄になってしまう。ときとして、他国への配慮も入り、記述が「一定の範囲内」におさまるようフィルタリングされるという弊害もある。
その分、本コラムでは、性格も考え方も異なる19人、一人ひとりがどうやって台湾と関わってきたかのストーリを通じ、「個性」が鮮明に描かれており、あまりにも面白くて、睡眠時間も削って、かれこれ十回以上読み返している。
本コラムで興味を持った人物については、Google検索などでより詳細な情報を入手し、その後の発展学習につなげるという【インデックス的】な利用方法も期待できる、付加価値の高いコンテンツだと思った。
たびたびテレビ番組で取り上げられることもあり、「烏山頭ダム」を建てた功績で知られる八田與一は、すっかり有名人だが、それ以外の「台湾に根付いた日本人」となると、まだまだ知名度は高くないのが現状である。本コラムは、たった6ページに過ぎないコンパクトな記事でありながら、八田をふくめ37人もの、台湾へ情熱を注いだ日本人のエピソードが語られている。
「日本人列伝」37点を通して、台湾への理解が深められる。日本人なら、是非とも一読した上で、台湾を訪問したい。
ベテランの台湾旅行者であれば、本コラムに由緒あるスポットを巡ることをテーマとする旅行を計画するという使い方も可能だろう。
まとめ:「短命」な雑誌として発行されたことが惜しまれる「買い」の台湾特集本
いかんせん「9月号」という雑誌形態につき、発行部数も限られている。
流行や時事ネタに左右されない、「永久保存版」として価値のある一冊である。雑誌として発行された悲しい運命上、近いうちに入手不可能となっていることも十分考えられる。閲覧用に一冊、保存用に一冊。たとえ二冊購入しても、1,500円ちょっとである。
これだけ情報量ギッシリの講演会やテレビ番組は期待できない以上、台湾ファン必携、「買い」の一冊といえよう。