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はじめに:海外拠点との打合せ。何でもかんでも、資料画面共有&口頭ベースでやっていないか?
こんにちは。
時差や距離という、オフショア開発ならではの制約条件を受けながらも、最大限の成果アウトプットを引き出すには、「遠隔コミュニケーション」の質を向上させることが非常に重要であることは、言うまでもありません。
かつての筆者自身そうだったのですが、海外拠点との遠隔ミーティング(電話会議、テレビ会議)は、事前作成した資料(エクセル、パワーポイント)を共有画面で表示しながら、口頭ベースで質疑応答を済ませるというスタイルが主流かと思います。
遠隔地とのコミュニケーション(電話会議、テレビ会議)
プロジェクトの進捗管理や、組織体制図の説明など、比較的シンプルな議題であれば、この方法でも問題なくコミュニケーションできる一方、ソフトウェアの開発環境や仕様など「込み入った議論」をするときには、そうはいきません。
口頭ベースのコミュニケーションでは、「込み入った議論」が困難なばかりでなく、両チーム(日本側・海外側)の間で大きな「誤解」が生じ、後工程になってから問題が明るみに出て、現場が「てんやわんや」の大騒ぎになる可能性も高くなります。
本記事では、遠隔拠点間(日本 vs. 海外)において、技術的トピックを中心とする「込み入った議論」を、正確かつ効率的に行うため、市販の安価なデバイスを活用して何ができるか、チャレンジしてみた結果をシェアしたいと思います。
予算はないけど、「遠隔コミュニケーション」の課題を解決したい。どうすれば?
東南アジアの子会社から、(日本語教育と技術研修のために)日本へ派遣されてくる若手ITエンジニアの教育担当を五年ほど経験しました。
この経験を通じて感じたのは、(日本人にも、そういう人はいますが……)彼ら彼女らは、疑問点を機関銃のように口頭ベースで発言するため、よく注意して「最後の最後」まで聞かないと、質問の趣旨がつかめないということでした。
ホワイトボード活用によって、「描く」ことの威力を知った
このままだと、聞く側、話す側の双方が疲弊するだけではなく、コミュニケーション効率が、いつまでたっても向上しません。
そこで筆者は、海外の若手ITエンジニアと議論するときは、常にホワイトボードを利用することを心がけました。
コミュニケーションにホワイトボードを活用
その効果はてきめんで、口頭ベースでどうしても分かり合えなかった議題が、ホワイトボードで図や表にして会話をすると、あっという間に話が決着できます。
音声で伝わる情報量、ビジュアルで伝わる情報量の違いに、圧倒されました。
遠隔会議になるとホワイトボートが使えないという困った課題が……
日本での研修を終えた若手ITエンジニアが帰国したとき、今度は、別の問題が起きます。
両者とも、同じ部屋で会話をしている分にはホワイトボードを活用できるのですが、遠隔会議となれば、そうはいかないからです。
インターネットで調査したところ、「遠隔ホワイトボード」なるものを販売しているメーカーが見つかりました。
リコーから「遠隔ホワイトボード」も販売されているが……
品物自体は興味深かったのですが、大型で置き場所を取る上、価格がウン十万円という世界であるため、そう簡単に導入することはできなさそうです。
収納スペース、予算の問題だけであれば、もう少しコンパクトで安価な、iPadなどのタブレット、あるいはSurface端末を導入すれば良かったのですが、「社内標準」とは異なるデバイスを導入するとなれば、いろいろな「面倒」やら「手続き」がつきまとうであろうことは目に見えています。
一万円ちょっとの「ペンタブレット」こそ、探し求めていたソリューションだった
職業イラストレーターをしている友人との会話で、「Wacom社のペンタブレットがすごくいい」という情報を聞きつけました。
絵心のない筆者は、これまでペンタブレットを触ったこともなかったのですが、インターネットで少し調べるだけでも、Wacom社のペンタブレットが世界中で信頼を勝ち得ていることは、すぐに理解できました。
■Wacom社のペンタブレットがすごい理由
- 全世界の電子ペンタブレットにおいて、Wacom製品のシェアは八割を超える
- 『美女と野獣』の制作で、ディズニーからWacom製品が採用された
- 価格も、「一万円ちょっと」という手頃な設定になっていること
追い風となったのは、利用していたパソコンのOSがWindows 10へ移行することになり、Windows 10にはWindows Inkなる、標準のソフトが附属していることでした。
Windows Inkと、Wacom社のペンタブレットを組み合わせることによって、パソコンを買い替えることなく、海外のITエンジニアと、まるで「隣同士にいる」かのように、ディスカッションできることを確信しました。
描画オプションも充実した「Windows Ink」
オススメ機種と、選定理由
筆者が購入したのは、こちら。
ちょうど、ノートパソコンと同じくらいの大きさ(216.0 x 135.0 mm)です。
Wacom社のサイトは、若干、サイトの階層構造が分かりづらいですが、標準的なペンタブレットとしては、以下の2モデルが販売されています。
- Wacom Intuos
- Wacom Intuos Pro
プロのイラストレーターなら、間違いなく「Pro」を買った方が良いですが、ITエンジニアとして、走り書き程度のメモをするのであれば、Wacom Intuos(Proでない方)でも十分実用的だと言える性能であるため、心配の必要はありません。
また、Wacom Intuosには、Sサイズ(152.0 × 95.0 mm)とMサイズ(216.0 x 135.0 mm)の2種類が用意されていますが、ここは迷わずMサイズにしておくべきです(Sサイズだと、細かな情報を書き切るのが難しくなるため)。
利用してみて感じたこと
ペンタブレットを購入するまでは、「マウスで十分かも?」と思うこともありましたが、実際に使ってみて、ペンタブレットには入力スピートにおいて、圧倒的な優位性があることを体感できました。
また、「ペンタブレットの操作に慣れるまで大変?」という不安もありましたが、ハードウェアの素晴らしさ(筆圧センサーなど、Wacom社の製品)に加え、ソフト側のWindows Inkがかなり「手書き」に近い感覚で使えるよう改良されているため、スムーズに利用開始することができました。
ノートパソコンと同じくらいのサイズ
具体的には、以下のような利用用途で、大変重宝しています。
- 利用部門(ユーザ部門)の業務フローをざっくりと図示
- ソフトウェア開発環境(開発者PC、DBサーバー、PHPサーバーの関連)の図示
- コーディング時の実装デザインについて、大まかな方向性(アイデア)の図示
言葉では、あれだけ伝わりにくかった内容が、ペンタブレットの導入一つで、見違えたように推進しやすくなりました。
もっと早く導入しておけば良かったと後悔したほどです。
まとめ:相手側(海外)のITエンジニアから寄せられた感想など
導入から半年ほどが経過していますが、相手側(海外)からの反応は上々です。
以下のような点において、以前よりもコミュニケーションが取りやすくなったというフィードバックが得られました。
- ソフトウェア設計(ロジックの構造)のアイデア交換
- ソフトウェア修正箇所や、修正方向性のアイデア交換
- ソフトウェア開発環境構築に関するアイデア交換
実を言うと、当初、相手側(海外)でのタブレット導入への関心は薄く、まずは日本側だけで導入することになったのですが、運用を始めて一ヶ月たらずで、相手側も【真価】が理解でき、購入してくれました。
オススメなのは、相手側(海外)、日本側の両拠点が一台ずつ購入した上で、一枚の「共有用紙」に書き込めるように会議を推進するスタイルですが、筆者のように、相手側(海外)から積極的な感触が得られなかった場合には、まずは自分たちで使い始めて、その効果をデモするというアプローチが良いと思います。
一万円ちょっとの投資で、オフショア開発で抱える「遠隔コミュニケーション」の課題へ対して、有効な一手を打てると思えば、破格的コスパとも言えます。