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はじめに:「使いやすい!」と感動したフレームワーク。作者をググったら、アジア出身のITエンジニアだと判明
こんにちは。
最近、フロントエンドの開発業務が増えて、Vueフレームワークを使う機会が出てきました。
Angularフレームワークでお腹いっぱいになっていた筆者としては、「また新しいフレームワークを覚えないといけないの?」とウンザリするところだったのですが、チュートリアルをやり、Udemyで技術講座をいくつかこなすうちに、あっという間に書きたいコードが仕上がってしまい、そのシンプルな設計に驚かされました。
大変優秀な開発者がデザインしたフレームワークなのだということを感じ、その作者について「もっと知りたい」と思ったことが、本記事の執筆モチベーションにつながっています。
Google検索したところ、Evan Youという、まだ三十代前半の若い技術者がVueを作ったことも驚きだったのですが、「ITの本場」アメリカで、アジア出身のITエンジニアがバリバリ活躍していることに感銘を受けました。
現時点では、まだ日本語の詳しい記事がなかったため、「自分で作るしかない」と思って、Evanの「伝記」をまとめてみました。
日本の「マンガ」も大好きな、Evan You(エヴァン・ヨー)

Evan You(エヴァン・ヨー)
■名前
- Evan You (English)
- 尤雨溪(中国語)
- エヴァン・ヨー(日本語)
無錫出身の、米国在住中国人。
エヴァンゲリオンを始めとする「マンガ」が大好きなことでも有名。
Vueのバージョンアップ時、コードネームが(マンガのタイトルを使った)アルファベット順に増えていくことは、Evanの「マンガ」好きを物語る逸話。
- 0.9 Animatrix(THE ANIMATRIX)
- 0.10 Blade Runner(ブレードランナー)
- 0.11 Cowboy Bebop(カウボーイビバップ)
- 0.12 Dragon Ball(ドラゴンボール)
- 1.0 Evangelion(エヴァ)
- 2.0 Ghost in the Shell(攻殻機動隊)
- 2.1 Hunter X Hunter(Hunter x Hunter)
- 2.2 Initial D(頭文字D)
- 2.3 JoJo's Bizarre Adventure(ジョジョの奇妙な冒険)
- 2.4 Kill la Kill(キルラキル)
- 2.5 Level E(レベルE)
学生時代
無錫(中国)で誕生したEvan。
学生時代の経歴を、時系列準に追ってみましょう。
小学校時代
1996年、Evanがおよそ十歳だったころ、初めてコンピュータに触れる体験をします。
没頭していたのは、プログラミングではなく、Flashベースで作られたゲームで遊ぶこと。
コンピュータと人の対話形式(双方向)で進行するゲームスタイルに慣れ親しんだことは、Evanが後に、フロントエンドのエンジニアを志す土壌を形成したのかも知れません。
上海復旦高校
高校時代は3年間、上海の高校に通っています。
名門・復旦大学の付属高校ですが、復旦大学へ進むことはなく、アメリカへ羽ばたくことになります。
YouTubeにアップされている、EvanによるVueのデモンストレーション(英語)を視聴すると、高校を出るまでは中国で暮らしていたにも関わらず、流暢な英語を使いこなしていることに驚きます。
コルゲート大学(学士、2005 - 2010年)
公式プロフィールによると、米国への大学へ入学したのは2005年 ------ 浪人などせず、ストレートでの進学だったとすれば、Evanは1986年生まれという計算になります。
日本人にとっては、あまり名前を聞かない大学ですが、1819年に設立されたリベラルアーツ系の名門校であり、日本でいうと、国際基督教大学(ICU)のような隠れた名門校といった位置づけです。
意外なことに、彼が在籍したのはコンピュータ専攻ではありませんでした。
Art & Art Historyの分野で学士号を取得しています。
パーソンズ美術大学(修士、2010年 - 2012年)
コルゲート大学を卒業した後は、パーソンズ美術大学の修士プログラムへと進みます。
ここでEvaが取得したのは、Design and Technology分野においてMFA(Master of Fine Arts、美術学修士)の修士号。
MFAとは聞き慣れない学位名称ですが、アメリカでは最近、MBA(Master of Business Administration、経営学修士)よりも価値ある学位として、ビジネスパーソンの間では注目を浴びる存在になっています ------ iPhoneに見られるような、デザイン性を重視した製品が、これからの時代では売れていくことをアメリカのエリート層は直感的に理解しているのでしょう。
Vueの美しくてシンプルな実装コーディングスタイルには、Evanが大学院時代に培った美的センスの影響も、無関係ではないかも知れません。
なお、Evanはパーソンズ美術大学で四ヶ月間、JavaScriptやHTML5の実習で学生指導にも当たっています。
プログラマとしてのキャリア
コンピュータ専攻ではなかったEvan。
プログラム開発者としての、最初のキャリアは、パーソンズ美術大学の修士プログラムに在籍中の2011年、インターンシップ生として参加した、Webサイトの開発プロジェクトでした。
本人いわく、プログラミングの学習方法といえば、オンラインコンテンツを活用する「独学」をベースに、他人のコードを読んで、そこから技術者として必要なエッセンスを身につけるというスタイルだったようです。
特に、TJ Holowaychuk(英国在住、apex.shの創業者)のエレガントなコーディングから薫陶を受けたようで、Evanは彼のことを「ヒーローだった」と言います。
頭角を現し、パーソンズ美術大学卒業とほぼ同時に、Googleでの職を得ます。
Google入社(2012年)
2012年にGoogle入社後は、ブラウザ上で動作するプロトタイプの開発業務に従事。
仕事でAngularフレームワークを使う中、「ちょっとしたロジックを実装したいだけなんだけど、Angularだと、大げさになり過ぎる。もっと軽く実装できないものだろうか?」と疑問を持ち始めたEvan。
Angularの不要な技術要素を削ぎ落し、「データバインディングが動作すること」といった、本当に必要最低限の構成セットとなるような「軽量フレームワーク」の自作を試みるようになります。
これを業務時間内にやっていたかどうかは分かりませんが、頭脳集団Googleの就労環境であれば、開発者がやりたいと思ったことに気兼ねなくトライできる自由闊達な雰囲気があることは、想像に難くありません。
Vueプロジェクトの立上げ〜オンライン公開(2013 - 2014年)
2013年、彼が自作してきた「軽量フレームワーク」がけっこう使えるようになり、Vueと命名。
Vueを作るまでに相当な時間を費やしたEvanは、次に、周囲の人へVueを活用するようにすすめてまわります。
VueをGitHubにアップロードして、オンライン世界での公開に踏み切ったのは、2014年のことでした ------ アップロード後、Evanの想像を上回る反響があり「めちゃくちゃ感動した」と後に回顧しています。
そして、Evanは、わずか二年五ヶ月という在社期間でGoogle社を去りますが、おそらく「Vueでやっていける」という確信が持てたのでしょう。
メジャーになることは、プレッシャーが高まることだった
Vueがメジャーになるにつれ、「プレッシャーを感じることが増えるようになった」と振り返るEvan。
マイナーだったころは、(その理由が何であれ)Vueが注目を浴びること自体が喜ばしかったのですが、メジャーになると、ReactやAngularといった他フレームワークと比較されることが増えたのです。
Vueの開発に心血を注ぐEvanにとって、「ReactやAngularだったら、もっとうまく、簡単にできるぞ?」のようなフィードバックは、さぞやこたえたと思います ------ そして、今日も「現在進行形」でVueの改良、バージョンアップが進められる背景には、このプレッシャーと戦い続けるEvanたちのチームが背景にあるのでしょう。
改良を重ねる際、驚くべきことに、白紙状態からコードを書き直すことも(複数回)あったと言います。
これでよしと思って書いたコードも、半年後に振り返ってみると「よくこんなコードで動いていたな?」とあきれかえることもあったと言いますが、それは、Vueのバージョンアップの道のりこそ、Evan自身の開発者としての成長の道のりでもあることの裏付けなのでしょう。
まとめ:記事を書き終え、「謙虚で、向上心の強いITエンジニア」という姿が浮かび上がってきた
十代後半で単身、アメリカへ渡り、アートやデザインの分野で学位を取得。
新卒で就職したGoogle社は、わずか二年ちょっとで辞めてしまっています。
超優良企業での高収入ポジションを、いとも簡単に捨ててしまい、世界的に有名なフレームワークへと成長したVueを「マネタイズ」せず、無償提供し続けるEvanの姿には、私欲にとらわれず、技術的探究心で、さらなる高みを目指す向上心が伝わってきます。
現時点では、Vue開発維持に必要な収入が得られるよう、クラウドファンディングや、企業のスポンサーを募っているようです。
Evanの「伝記」について、日本語の記事はほとんど存在しなかったことから、休日のスキマ時間で本記事としてまとめてみたら、いつも使っているVueフレームワークを、どんな人が作ったのかがよく理解でき、感謝の念も持てました(小額ながら、寄付しようと思います)。
今後も、Evanに続いて、アジア出身のITエンジニアが(ITの本場である)アメリカで活躍していく様子を見られると快感ですし、本記事のような形で、ぜひクローズアップしてみようと思います。