目次
高級ヘッドフォンのコードがまた切れて、自分もキレる

購入後、二度目のコード断線に「またかよ……」
ザザザザザ……ジジ………
愛用中のBOSE社製ヘッドフォンで音楽を聴いていると、時折、耳障りなノイズ音が入る。

コードが、根元のコネクタ部分で内部断線したようだ。

コードのコネクタ部分が、内部断線したらしい
三年前に購入して以来、この不愉快な現象が起きたのは二回目なので、今回は、すぐに「原因」がピンと来た。前回は、コードの修理をあきらめて、新品のコードに買い直した経緯があった。
メーカー純正品の「相場価格」をご存知でない方は驚かれるが、BOSEは、コード一本だけで3,500円もする高飛車ブランドである。
コネクタ部分さえ修理できたら、コードとしては、まだまだ問題なく使えるであろうことは分かっていただけに、余計腹立たしかった。だからと言って、BOSEを使うのをストップして、他社製品にする気持ちにもなれない。
BOSEのノイズキャンセリング機能で約束される「極上ピアニッシモのフライト空間」の魅力は、何物にも代えがたい。

極上ピアニッシモのフライト空間
そんなとき、あることが脳裏に浮かんだ。

たしかに、バンコク行きの航空券を、数ヶ月前のセールで購入していた。

バンコク旅行を予約していたのを、たまたま思い出した

まだまだ現役で使い続けられるコードを、ちょっとした部分的故障の為だけに、あっさり3,500円払って買い替えるのも、アホらしい。
バンコクの物価は、日本のそれよりも安いので、コードの修理費だって、相応に安いはずだ。
スーパーコンピュータ並のスピードで、アジ吉の脳内そろばんが火花を散らしたのであった。
「コード修理の旅」はじまる。いざ「バンコクの秋葉原」こと、ソイ・ティップ・ワリ(Soi Thip Wari)へ
「バンコクの秋葉原」として名高い、ソイ・ティップ・ワリ(Soi Thip Wari)。
そこへ一人の日本旅行客が、内部断線してノイズが混入するようになったコードを片手に、参上という場面設定である。

バンコク市内なら、どこにでもありそうな風景(ソイ・ティップ・ワリ)
勇んでやってきたものの、この電気街の職人たちが、どれくらいのスキルを保有しているかは、旅の出発前、いくらググっても情報を得られず仕舞い。
けっきょく、右も左も分からない状態で、この街へやって来た。
最悪の場合、もくろみが外れて、ダメ職人に出会ってしまい、コードがまるまるオジャンになる可能性も否定できなかったが、もともと「ゴミ箱行き」の運命にあったことを思えば、なんてことなかった。

そういう期待もあった。
大小様々の電脳系露店が軒を連ねるソイ・ティップ・ワリの光景を見ると、まだまだ電子機器ショップが元気よく営業していた、二、三十年前の大阪・日本橋を彷彿とさせるものがあった。

所狭しと、電子機器ショップが立ち並んでいる
まったく同じような商品を扱う店同士が、どうしてお互いつぶれることなく、商売成立するのか不思議なほど密接している。
客足は途絶えることなく、店員と客の間で、超ガチの値段交渉がそこここで繰り広げられる様子は、タイ語が一切分からない観光客から見ても、迫力に満ち溢れており、それ一つでエンターテイメントの要素を満たしていると言っても過言ではなかった。

店選びは、ある種の「ギャンブル」であり、「高確率ババ抜き」の様相を呈している。
東南アジアの「基本共通ルール」として言える、3つのルールがある。
- できるかどうか分からないようなことでも、自信満々"Yes, I can!"と言い張るような人が、石を投げれば当たる距離内にゴロゴロいる。それが東南アジア
- 相手の言うことを信じるかどうか、そして、その結果もたらされる出来事のすべては、自己責任である。騙されても怒ったり、相手を罵ったりしてはならない。あくまでも、相手の能力を見抜けなかった自分が悪い。それが東南アジア
- 割合的にそう多くないが、日本クオリティ、あるいはそれをはるかに凌駕する水準で「いい仕事」をする必殺仕事人が、どんな国でも、必ず一定数いる。だが、そういった人たちと出会うことを期待してはいけない。これは万国共通とも言えるが、東南アジアでは「当たりくじ」が非常にレア
閑話休題。
ソイ・ティップ・ワリについて何も分からない以上、とりあえずは「第一印象」、見た目で選ぶしかない。
店の規模がそれなりに大きく、オーディオ関連の店頭在庫が豊富なショップに的をしぼり、そこのスタッフに声をかけてみた。

断線したコードの実物を見せ、ボディランゲージで「修理して欲しい」という気持ちを伝えることは、意外と簡単であった。
問題は、その「依頼」を引き受けてくれる店が、なかなか見つからないことだった。
三軒目、四軒目、次から次へと訪問先で断られ続けるうちに、「心のコード」まで断線してしまいそうな、アジ吉。
五軒目のスタッフでも断れる。

ダメかと思いきや、すこぶる親日派の五軒目店主は、どういうわけか、日本語を話すこともできた。

そう言い、アジ吉の手を引いて、人ごみの中、グイグイ引っ張っていってくれた。
救世主「エプロンおっちゃん」あらわる。裁ちバサミで、コード切断、もう「後戻り」不可能ステージへ
たどり着いた先には、上半身裸にエプロンという出で立ちの、「第一印象」では真っ先に却下していたであろう、オッチャン。
だが、よく見るとコード専門ショップらしく、色とりどりのコードが暖簾のように、じゃらじゃら、ぶら下げられている。

エプロンおじさん

オッサン、三秒ほど眺めたかと思うと、裁ちバサミで、コードの根元をぶった切るのであった。

ハサミでぶった切られたコード。もう「後戻り」できない
まるで緊急治療室の廊下で、医師からの告知を待っている家族のような気持ち。
「手術」が終わるまで、炎天下のソイ・ティップ・ワリで立ち続け、ひたすら見守るアジ吉。

修理中の風景
修理は、ものの五分ほどで完了。

修理後の動作テストもしないまま、修理を終えたばかりのコードを渡してきたオッサン。
よほどの自信家と見た。

震える手で、片端子をiPhone、もう片端子をヘッドフォンへ刺し、再生ボタンを押下。

再生ボタンを押すと、ノイズのない、クリアな音楽が流れたのだった
iPhoneで音楽再生させてみたら、まるで新品のケーブルのように、ノイズのない、キレッキレの音に戻っていた。
本来3,500円かかるところ、200円で問題解決できて、大満足、超満足、スーパー満足。
おかげで、一時は「ゴミ箱行き」とまで考えたコードが息を吹き返し、当分、安心して良い音を楽しめそうである。

修理前のコネクタ(左)、修理後のコネクタ(右)
「修理の旅」というジャンルは、インターネット上に星の数ほどある旅行記でも見つからなかった、かなり個性的な旅行だと思う。
地元っ子との触れ合いを楽しみながら、ドキドキ感もあり、運が良ければ格安で修理できてしまうので、一粒で三度美味しい旅スタイルだと言えよう。
もし、また何か修理したい品物が出てきたら、今度はどこの国へ持っていこうかとワクワクしながら、筆を置くアジ吉であった。