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はじめに:オフショア開発における「永遠の課題」
こんにちは。
賃金の安さ、豊富な労働人口といった魅力を持つ新興国をパートナーとして、「オフショア開発」へ取り組む企業は少なくありません。
「いったい、どれくらいの企業が成功事例を生み出せているのだろうか」
筆者にも、オフショア開発の経験があり、今も現在進行形で海外SEとの協業開発プロジェクトに携わっています。
日々、頭を悩ませるのは、協業先スタッフ(新興国で働くエンジニア)の離職率。
本記事では、離職率の問題が、協業開発プロジェクトへどういった影を落とすかの具体的な課題事例を取り上げた上で、それに対して、どういった解決アプローチが考えられるかについて、切り込んでみたいと思います。
スタッフ離職が協業開発プロジェクトにもたらす課題事例
同業他社間における企業間の賃金差が2倍や3倍なんてアタリマエという、日本では考えられないほど、転職が大きな意味を持つ新興国。
少しでもいい条件のジョブポジションが見つかると、現在参画しているプロジェクトのことなどお構いなしに、アッサリ転職してしまうスタッフもいます。
「愛社精神」なるもの、もはや、日本特有のガラパゴス的な概念なのかも知れません。
以下でご紹介する具体的な課題事例は、そんな離職問題から引き起こされる、切実な問題ばかりです。
突然途絶えてしまう業務ノウハウ継承チェーン
若手スタッフの離職ならまだしも、勤続五年以上といった中堅クラスのスタッフ離職となると、協業開発プロジェクトに与えるインパクトも大。
一般的に、業務ノウハウのシェアが進みづらい海外の職場環境。
根底にあるのは、「自分の業務ノウハウを手渡すと、組織における、自らの優位性が崩れてしまう」という考え。
トップダウン方式で業務手順標準化を推進しない限り、業務ノウハウが特定個人に蓄積される「属人化」の現象が起きてしまいます。
(転職先を見つけた)スタッフから離職届が提出されるころには、すでに手遅れになっているほど属人化が進んでおり、短期間で後継者を育成することもできず、組織にとって財産となる業務ノウハウが、人と一緒に流出してしまう問題です。
プロジェクトの費用超過、納期遅延
スタッフ離職はいつ起こるか予想できず、それによって失われた業務ノウハウを取り戻すのには、長い年月を要します。
離職したスタッフの役割を穴埋めするため、新しい担当者を育成する教育コスト(時間と費用)が発生し、結果として、プロジェクトの費用超過、納期遅延が引き起こされるという新たな問題が生まれます。
そればかりか、委託先(新興国)ではにっちもさっちもいかなくなり、最終的には、発注元(日本)に仕事が「逆流」してきて、なぜか発注したはずのシステムを、日本側で「肩代わり」して完成させるという構図になることも少なくありません。
悪循環が、新たな悪循環を生み出す構図
スタッフの離職問題が起こり、プロジェクトのQCDが未達成に終わってしまう ------ そういった「リスク」が潜む以上、協業開発プロジェクトとして業務のレベルアップがはかれず、いつまで経っても、単体テストなど作業レベルの「超下流工程」しか業務委託できない。
この状況になると、(委託先の)スタッフのモチベーションが低下し、スタッフ離職率がますます高まり、プロジェクトQCDもますます悪化するという悪循環に突入します。
山積みの課題を解決するためのアプローチ
スタッフ離職の問題は、あきらめるしかないように思えます。
それでも仕事は回さなければならないプロジェクト現場は、どういう着想をすれば良いのでしょうか。
在籍年数を伸ばすという着想
スタッフ離職を完全になくすことはできないので、せめて在籍年数を伸ばそうという解決アプローチです。
平均在籍年数が上昇すれば、それだけ安定してプロジェクトを回すためのリソースを確保できるようになります。
とは言え、在籍年数を伸ばすためには、スタッフの忠誠心が高まるような仕組みを構築する必要があり、有能な上級管理職が必要になるでしょう。
コアとなる業務ノウハウは日本が手元で管理するという着想
スタッフ離職はやむを得ないため、業務委託をしても業務ノウハウが過度に日本から流出しないように工夫するという解決アプローチです。
これなら、(委託先の)スタッフが離職してしまっても、業務ノウハウの「バックアップ」が日本側に残っているため、業務ノウハウの消失は防ぐことができそうです。
「言うは易く行うは難し」とはよく言ったもので、業務委託をしつつも日本側が業務ノウハウを掌握するというプロジェクト運営は、決して簡単なことではありませんし、日本人側の工数負担も増加し、業務委託することの旨みが薄れてしまうでしょう。
「永遠の課題」には手を付けないという着想
たとえ、2倍や3倍の賃金を出したところで、スタッフ離職に歯止めはかからないでしょう、人はお金だけで動くのではないですから。
人材は短期間で流出するものだと割り切って、その制約条件下でまわすことのできる難易度のプロジェクトしか、発注しないと割り切るのも「解決」アプローチの一つだと思います。
まとめ:現場の声をエスカレートすることの大切さ
いかがでしたでしょうか。
こういった課題事例は、プロジェクト現場における必死の「火消し」によって内々で解決される【忖度】によって、経営層にまで「声」として届かないことも多いと思います。
プロジェクト現場は、課題事項の整理とエスカレート、経営層は、現地現物で判断をするためのアプローチをし、両者が歩み寄ることによって、オフショア開発の「あるべき活用方針」が導き出せるかも知れません。