こんにちは。
筆者は十年以上、オフショア開発の日本側窓口を担当しています(海外駐在をし、現地側での人材育成に携わっていた時期もあります)。
日本の数分の一というコスパ(人件費)をうまく活かすことができれば、ソフトウェア開発をかなり安価に進めることができます。
現時点では、オフショア開発は、企業における取り組みが中心となっていますが、個人レベルでもオフショア開発を活用できるようになると、フリーランスエンジニアとして案件を受注しておき、部分的に(単純作業タスクを中心に)海外へ業務委託ができ、より効率よく個人が稼げる仕組みを築けます。
本記事では、オフショア開発へ個人でチャレンジする際に注意したいことをざっくりとまとめています。
目次
委託業務スコープの確定
まずは、どのような業務を発注するかの戦略を練ります。
このときは、以下のポイントに気をつけながら、委託業務スコープを調整していきます。
最初は、あまり欲張らずに「これなら、誰でもできるでしょう」というレベル・ボリューム感の領域から着手するくらいでちょうどいいでしょう。
■委託業務スコープの設定で気をつけること
- とにかく、タスクを細分化し、最小タスクは子どもでもこなせる難易度に設定すること(プラモデル作成くらいの難易度)
- 日本語スキルがなくても完了できるよう、タスクを切り出すこと(例:本来は日本語表示だが、ハリボテとして、相手の母国語での作成を一時的に許可。納品後に自分で置き換えるetc...)
- 誰がジャッジしても同じ結論になる、ブレない「良品条件」が設定できること。良品条件の判定が難しければ、新興国への委託には不向きであると判断するべき
上記とは別に、クライアントとの守秘義務に反することがないための配慮も欠かせられません(個人情報の含まれたデータは、渡さないetc...)。
かなりざっくりした言い方をしますが、新興国に関わらず、遠隔地のビジネスパートナーを相手に業務発注をする場合は、誰がやっても同じ結果が得られるほど小さなスコープの範囲に切り出し、なおかつ、詳細な手順書を作れることが大前提ということは頭に入れておきましょう。
求人
委託したい業務が確定したら、ビジネスパートナーとなるエンジニアを探しましょう。
方法はどんなものでも構わないと思いますが、以下のような選択肢があります。
■新興国でエンジニアを見つけるためのアイデア
- SNSのソフトウェア開発コミュニティで積極的に発言しているエンジニア
- GitHubに優秀なソースをアップロードしているエンジニア
- 有名大学の学生が講師をするオンライン英会話
エンジニア求人サイトを使うと、相手はガチで(プロとして)やっていることが多く、先進国と変わらない料金を請求されてしまうため、上級アマチュア(コンピュータ専攻の大学生くらい)を探すというのがポイントだと思います。
その際、以下のような観点に注意しながら人選します。
■選考基準
- 報酬(その国の人件費をチェックしましょう。月給を20で割ったら日給が出せ、それを8で割ったら時給が分かります)
- 実力測定のため、本人が作成したサンプルソースのクオリティ点検(読みやすいか? バグはないか?)
- 言語能力(仕事を一緒に進める上で、必要最低限の英語力を有しているか?)
上述したような基準をクリアする人材が見つかれば、トライアルとして業務を発注してみましょう。
計画策定
求人と同時進行で進めたいのは、プロジェクト計画策定。
委託業務スコープが決まり、ビジネスパートナーとの出会いに恵まれるタイミングまでには、ある程度、具体的にビジネススケジュールが確定している必要があります。
以下のようなことに配慮しながら、月次計画を作成し、それを細かくブレークダウンしていけば良いでしょう(月次→週次→日次)。
■計画策定の留意点
- 余裕を持ったスケジュール策定(特に初回の場合は、最悪の場合を想定しておくことが肝。納品物が使い物にならなくとも、自分でリカバリができるくらいのスケジュール策定を)
- クライアントとの納品期日から遡って、いつまでに、どのような成果物が出そろっていなければならないかを洗い出し、それぞれの工程で費やせる上限時間を算出
- 納品された成果物を、自分のアウトプット物と結合させるための手番も、忘れずに確保しておく
業務を外部に委託しようと、クライアントとの約束を守る責任は、本人にあります。
欲張りすぎず、楽観しない計画策定が大切です。
環境準備
環境の準備も、協業をスムーズに進める上では、非常に重要なファクターです。
具体的には、以下のような仕組みが整っていなければ、遠隔地にいるビジネスパートナーと働くことはできません。
■環境準備も重要ファクター
- データ・ファイルの受け渡し方法(セキュリティが担保されたGitHubなどの仕組みを検討)
- 成果物を確認するための環境は、双方で統一しておくこと(同一バージョンのIEブラウザで確認など)
- 途中経過をチェックできるためのツール選定(Skypeなど)
また、相手が新興国であれば、ネットワークの安定度合いも大切なチェックポイントです。
頻繁にやりとりをする必要のある業務委託であれば、回線が途切れたり、遅延することなく、音声や画像を送受信できることは大前提と思っておきましょう。
(付録)これも知っておきたい周辺知識
業務委託をするには、思ったよりも準備が多くて、萎えてしまった方もいらっしゃるかと思います。
実を言うと、本記事の紙面内で、オフショア開発に必要なことのすべてをご紹介することは難しいため(文庫本数冊のボリュームになります)、まだまだ書けていないこともありますが、以下のようなポイントにも注意しておくと、ビジネス成功の可能性をグーンと高めることができます。
相手を上回る技術スキルがなければ、使いこなすのは難しいという現実
本記事における業務委託内容については、工数不足を補うために単純作業を新興国へ発注するというシチュエーションを想定しています。
業務委託内容について、相手と同等か、(少なくとも)劣らない程度のスキルが本人になければ、発注するのはリスクがあると考えた方が安全です。
なぜならば、相手に劣らないスキルがなければ、納品物の善し悪しを正確かつスピーディにジャッジすることが難しくなりますし、相手側から掲示された見積り工数の妥当性も、きちんと評価できなくなるからです。
業務をうまく回す経験を積み重ねて、ようやく、ハイレベルな内容の業務委託を検討できるようになります(物事には、順番があります)。
支払い方法の確認(送金方法、手数料、レート)
相手が外国である場合は、送金方法についても、事前調査しておき、適用レートや送金手数料についての取り扱いも、双方で合意しておく必要があります。
また、成果物が完全に仕上がらなかった場合、どのように清算するかも、事前に合意しておいたほうが、トラブルは避けられるでしょう。
成果物の手直しについても、事前に合意(どれくらいの修正までなら対応できるか、工数に上限を合意しておく)しておく必要があります。
業務委託は本来、手のかかるもの
本記事では、かなり現実的なトピックを凝縮した為、まだこの領域のビジネスを経験されたことのない方にとっては、正直「面倒くさい」という印象を与えてしまったのではないかと思います。
そしてその印象は決して間違いではなく、業務委託は本来、手がかかって、面倒くさいものです。
ビジネス成立後、すぐに効果が感じられることは少数派で、幾度もの失敗や改善を重ねて、発注・受注の両サイドが気持ち良く仕事を進められるように成長していくものです。
決してハードルは低くありませんが、新興国へ業務委託をするスキルを身につけると、ビジネスチャンスを大きく拡大することが可能になります。
本記事が、一人でも多くの方々にとって、新しいビジネスを手がけるヒントとなれば大変嬉しく思います。
最後まで読んでくださり、ありがとうございました。