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はじめに:台湾「ミシュランB級グルメ」という新ジャンル
B級グルメを専門にあつかうB級ブログとしては、珍しく、今回は「ミシュラン」から評価を受けた一軒をご紹介したい。
……とは言っても、ドレスコードが決められたような店ではなく、なんてことはない、ミシュランに認められた台湾B級グルメがあるという記事なので、いつも通り肩肘張らずに一読いただけると嬉しい。
三十秒でわかるミシュラン「ビブグルマン」
ミシュランと言えば、三段階の星によるレストラン評価が有名であるが、それとは別に「ビブグルマン」という評価も存在している。
少しまどろっこしい言い回しだが、「ビブグルマン」とは、星による評価を得られなかったものの、【一定の評価】に値するというポジションのようである。
以下、ミシュラン公式サイトより引用。
- 三つ星 …… そのために旅行する価値のある卓越した料理
- 二つ星 …… 遠回りしてでも訪れる価値のある素晴らしい料理
- 一つ星 …… そのカテゴリーで特においしい料理
- ビブグルマン …… コストパフォーマンスの高い飲食店・レストラン。丁寧に作られた良質な料理が手頃な価格で食べられる
- お勧めのお店 …… 星、ビブグルマンはつかないけれども調査員お勧めの飲食店・レストラン
ビブグルマンには「五千円以内」というコスパ制約があり、日本では、ラーメン店が認定されたケースもあるので、かなり庶民サイドに寄り添った指標であることが分かる。
夜市も含む36店舗が「2018台北ビブグルマン」認定
2018年の台北ビブグルマンには、36店舗が認定されたが、そこには夜市も含まれるというから親近感が持てる。詳細は「台北 ビブグルマン」でグーグル検索すれば、詳しい記事が見つかることと思う。
今回の記事は、そのうちの一店舗である牛肉麺専門店を訪問しようとの趣旨である。
「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」訪問レポート
ねとらぼ記事で詳しく解説されているが、若者の街「西門」には、知る人ぞ知るオタクビル「萬年商業大樓」がある。十階建ての大きなビルディングだが、ガチャポン販売機、プラモ屋、フィギュアー専門店が多数入居する「オタク聖地」とも言える雑居ビルである。
UNIQLOやAdidasといった海外ブランドが真新しい店舗を開く時代の流れへ逆行するにように、「萬年商業大樓」の外観や、その内装は、二十世紀のまま時計の針がとまったような世界観を醸し出している。

西門の「萬年商業大樓」
1F〜4Fのフロアは、オタク系ショップによって、まるまる埋め尽くされている。地元民に「金(きん)を買うほど土地が高い」と言われる台北でも、【一等地中の一等地】にあたる西門に立地しながら、ものすごく贅沢なフロアの使い方。
フロアごとのテナント一覧表は、こちら。

1F〜4Fはオタク系フロア。台湾における「オタクのメッカ」だろう
冷やかしがてら、オタク系ショップを散策してみたが、どこも閑古鳥が鳴いていた。十年後の今日も、このフロア光景が西門に残っているかどうかは、正直わからない。
【昭和カラー】濃厚なグルメコート
さて。本日の目的地はオタク系ショップではなく、地下にある「美食街」、グルメコートである。

「ダンジョン感」たっぷりの地下にはグルメコート
地下へと続くエスカレータを降りると、【昭和カラー】が一気に色濃くなったグルメコート。
アジ吉にとっては、西門に、こんな雑居ビルがあったということ自体、大きな驚きに値したが、その地下にミシュラン「ビブグルマン」認定を受けたB級グルメの店舗があることを知って、二重に驚いてしまった。
こちらの食べ歩き本、光瀬憲子著『台湾の人情食堂こだわりグルメ旅』を買わなければ、一生、こんなところへやってこなかっただろう。

光瀬憲子著『台湾の人情食堂こだわりグルメ旅』
著者は、かつて台湾に生活した経験の持ち主でもあり、選店センスが素晴らしく、ディープな食事レビューも楽しい。
台湾へやってくる日本人観光客は、ガイドブックを盲目的に信じて、士林観光夜市や寧夏夜市へ足を運んで、台湾旅行を満喫したつもりになって帰国する。
それはそれで素晴らしい旅スタイルだし、夜市の楽しげな雰囲気が魅力的であることは否定しないが、本当は、こういう「隠れたB級グルメ街」のほうが、落ち着いて食事ができるし、価格も安いことが多い。そして、曲がりなりにも、一等地でつぶれずに長年営業していることが、「ガチ」の実力を示すバロメーターとも判断できるし、味も期待できるだろう。

めくるめくB級グルメ その1

めくるめくB級グルメ その2

めくるめくB級グルメ その3

めくるめくB級グルメ その4
今回は、すでに何軒もハシゴした後での来店であったため、この素晴らしき伝統あるグルメコートをしゃぶりつくすという願いは叶えられなかったが、是非とも、次回の台湾旅行では体験したい。
読者の方も、おすすめの店・料理が見つかれば、是非ともアジ吉に教えてください。
グルメコートのドン突きにある「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」
グルメコートはさほど大きくなく、店舗数にして、十軒あるかないか程度の規模だろう。
本日の目的「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」は、グルメコートの一番奥まったところで営業していた。この店こそ、2018年のミシュラン「ビブグルマン」を獲得した「一軒」である。

「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」
1949年創業というが、この年は、台湾にとっても歴史的な意味がある。
蒋介石ひきいる国民党政権や、戦乱を逃れた多数の民間人が、台湾へ大挙して押しかけてきた年である。いわば今日「外省人」と呼ばれる人々の先祖が、台湾で暮らし始めた、その年である。

店名「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」にも、山東省の地名が残っている
店名「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」からも分かるように、山東省からやってきた人々が開業したお店である。
1949年創業というから、台湾へ移民後、真っ先に開店したということになる。たとえ中国大陸の地を追われてしまっても、「味」だけは故郷から台湾に持ち込もうとした初代店主の気概を感じる。

厨房の様子が見える
店内は、厨房の様子が筒抜けに見える空間となっている。
台湾における、この手の店としては広々としたスペースが印象的。きっと、土地の値段がそれほど高くなかった時代だからこそ、これだけ贅沢なスペースを確保することができたのだろう。

店内の雰囲気
夕方四時という、昼食にしては遅く、夕食にしては遅い時間帯にやって来たためか、店内は落ち着いた雰囲気。
自分で調理した「まかない」を食べている店員さんの姿も。
「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」の食レポート
台湾は、看板メニューが店名になっている飲食店が多い。
こちらも例外ではなく、「老山東家常牛肉麺(牛肉麵)」との店名に、看板メニュー「牛肉家常麺」が含まれている。こういう場合は、初めての来店でも、オーダーで迷わずに済むので嬉しい。

「牛肉家常麺」にチェック印
体感的には、台湾の食事コストは、日本の三分の一くらい。
そんな「割安感」ある台湾でも、注文するのにチョット緊張が走る「プレミアB級グルメ」こそ、牛肉麺だ。一杯200元前後することが一般的で、これは「普通の食事」の倍くらいである。

「牛肉家常麺」
こちらの「牛肉家常麺」は180元。
日本円にすると700円弱なので、「普通のラーメン」といった出費感覚だが、心して味わう覚悟を決めて、一口目を運んだ

台湾では、牛肉を使う料理が、驚くほど少ない。他の台湾料理でなかなか味わうチャンスがないからこそ、牛肉麺ばかりは、惜しみなく、牛肉をひとくち大サイズにぶった切りにしたものを盛り付け、スープも、牛肉エキスが存分に楽しめるまで出汁をとろうという調理人の「心意気」とも言えるだろう。
また、牛肉は、口に運んだ瞬間、すぐにホロホロ崩壊するほど柔らかく煮込まれており、一口一口が至福のひとときであった。

きしめん状の、「つる・もち麺」
そして、特記に値するのが、日本の「きし麺」を連想させる、2センチほどの幅がある【ワイド麺】。
店の看板にnoodles made by handsとわざわざ強調しているくらいなので、麺は、この店のウリなのだろう。すする長さもないほど短く作られた麺は、表面がツルツル、食感がモチモチしており、「粗野」といった言葉が一番しっくりくる。
まとめ:完全無欠な「一杯」との出会いに大満足、アクセス情報
アジ吉が「理想の牛肉麺」に求める、三つの条件がある。
- 牛肉については、可能なかぎり繊細な食感(やわらか、ホロホロ)
- 麺はその反動で、どっしり、ぶっとり、でぶっとした食感
- スープには、牛肉エキスが余すところなく抽出されていること
これら三条件の満たされた牛肉麺と出会えてこそ、【台湾に来て牛肉麺を食べた】という気分になるが、ここの一杯は、まさにそれを象徴するような味わいであった。
西門へ何度も行ったことがある方でも、見過ごしやすい隠れ家的「一軒」であるからこそ、是非ともトライしていただきたい。
店名 | 老山東牛肉麺 |
住所 | 台北市万華区西寧南路70号 万年商業大楼B1F |
営業時間 | 10:30-21:30 |