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はじめに:華やかなイメージとは裏腹に、苦悩まみれの「バイリンガルSE」という仕事
こんにちは。
海外ソフトウェア会社のエンジニア部隊との協業開発では、プロジェクトの成否を左右する存在と言っても過言ではない、「バイリンガルSE」。
筆者自身、日英のバイリンガルSEとして、十年以上のキャリアを積み重ねてきました。
これまでに歩んできた道を振り返ると、あまり華やかなシーンは数少なく、むしろ、ソフトウェア開発現場の泥臭いトラブルや人間関係で「もみくちゃ」にされながら、しどろもどろ、必死のパッチ(大阪弁です)でやってきたという感しかありません。
本記事では、自らの経験を、あまり自虐的になり過ぎない程度に振り返りバイリンガルSE「あるある」の話題を提供したいと思います。
バイリンガルSE「あるある」業務ネタ
インターネット上に、バイリンガルSEの「あるある」業務ネタって、あまり晒されていないんです。
「それなら自分が……」と勇んで書き出してみると、半分以上が愚痴話っぽいネタに 笑笑
まず「日本語がわからない自分」に気づく
幹部社員を始めとする年配者の作成する資料は、難解な表現が盛り込まれていることが多く、日本語から英語へ翻訳する以前に、まずは、「日本語として」資料を理解することから始めなければならないケースが少なくありません。
「日本人なのに、日本語のことがあまりよく分かっていなかった……」
不思議な無能感を味わうことになります。
難解な日本語の翻訳は、まずはじめに、【日本語から日本語へ】の翻訳作業が待ち受けているという事実にぶち当たるでしょう。
そのまま通訳すると「とばっちり」を受け、なぜか自分まで怒られる
通訳は、本当に難しい仕事だと思います。
あいだに入る自分の「訳し方」ひとつで、両サイドの人間関係がどのように形成されていくか、少なからず影響を与えるからです。
直接的に、ズバズバものを言う人の言葉は、そのまま訳すと、人間関係が悪化してしまうため、婉曲表現を盛り込んでボカすなどの「配慮」も必要。
「脚色」し過ぎてはいけませんが、ダイレクトに伝えすぎると、なぜか、通訳者の自分までもが「とばっちり」を受け、怒られてしまうという理不尽な現象も起きます。
相手国の「ブリッジSE」が、せっかく育ったタイミングで辞めて行く
日本人の人件費は高いため、本来、通訳や翻訳のような「付加価値」をあまり生み出さない定型業務は、相手国(外国のソフトウェア開発会社)側が主体的に担うことが、(コストの面から考えても……)理にかなっています。
日本語学習者人口が多く、「漢字」という共通の文字システムを持つ中国であれば、実務レベルの日本語を解すブリッジSEを確保することは、さほど難しいことではありません。
一方、インドネシアやタイなどでは、片言の日本語を話せるブリッジSEはいても、実務レベルの日本語となると、本当に人材確保が難しくなります。
数々のプロジェクトを通じ、ようやく実務レベルで日本語を使えるブリッジSEが育成できたと思ったら、ある日突然、より待遇の良い求人情報を見つけて「辞表」を出してくることも……
いつ辞めるか分からない、相手国のブリッジSEを頼りにしすぎることはリスクでもあり、いつまでたっても、日本側でバイリンガルSEをしている筆者の業務負荷が軽減されることはありません。
一番キツいなのは、外国語ではなく、異文化や業務知識への精通
意外に思われるかもしれませんが、バイリンガルSEが一番苦労するのは、外国語ではなく、その「周辺のこと」だと思います。
まず文化の違い。
相手国へ日本の文化を押し付けると、必ず摩擦が生じ、逆も一緒。
また、通訳や翻訳を手がける上では、ITエンジニアとしての業務知識はもちろん、システム利用者部門(いわゆるユーザ部門)の業務知識も十分に理解をしておく必要があります。
ITエンジニアの現場で使われる表現は限られてくるので、三年間も通訳・翻訳を続ければ、外国語で苦労することは、ほとんどなくなるでしょう。
むしろ、上述したような異文化や業務知識には、体系だった「教科書」が存在せず、現場で体当たり的に習得する必要があることから、こちらの方が、はるかに大変です。
まとめ:苦労も、やり甲斐も、たっぷりの業務ポジション
「伝書鳩」になるだけではダメ、かと言って、(当事者以上に)首を突っ込みすぎるのもダメ。
また、バイリンガルSEだからと言って、モノリンガルSE(いわば日本語だけで仕事をするSE)と、まったく同じか、それ以上の技術者としてのスキルがなければ、プロジェクトをうまく回すことができません。
SEとしての業務に加えて、現地人が分かるよう、技術トピックをシンプルに噛み砕いて解説する能力も求められる大変なポジション。
立場も利害関係も異なる参加者の集う会議で、通訳をすると言うプレッシャー
大きな見返りがあるわけでもなく、長年続けていると「できて当然」としか評価されなくなる辛さもありますが、それでも「言語好き」には、コンピュータの話題にどっぷり浸かりつつ、外国語スキルも活用できる、やり甲斐たっぷりの仕事であることに変わりません。