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高校生や大学生が【大学院進学】を考えるヒント集|理工系学部が実質6カ年教育になった時代のキャリア開拓

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はじめに:大学院進学を考えるのに「早すぎる」ことはない

こんにちは。

現役エンジニアとして働きつつ、ときおり副業で家庭教師として高校生、大学生を教えています。

世の中って、大学進学については受験産業が発達し、情報も溢れかえってるんですが、大学「院」進学となると、入手可能な情報量がとたんに減ってしまうんですよね。

「自分の目や手足で情報収集しに行く積極性と能力がないやつは、そもそも大学院へ行くな」

インターネット上の巨大掲示板、質問サイトには、熾烈だが、ある意味「正論」の書き込みも散見されますが、高校生や、大学低学年など、そうすることが難しい環境の人もいるでしょう。

本記事では、理工系の大学院進学を考える皆さんに向けて、【今、考えてみるべきこと】のヒントをご紹介しようと思います。

「まだまだ先のこと」だからこそ、真剣に考えてみる大学院進学

大学院への進学が前提の理工系では、教育カリキュラムが実質「6カ年教育」化つつあります。

国公立大学では、特に大学院進学率が高く、八割程度の卒業生が大学院へ進むケースも珍しくありません。

たとえ、現時点ではそうするつもりがなくとも、将来、大学院進学と向き合わざるを得なくなることになるかも知れないというケースもあります(筆者がそうでした)。

もう少し、具体的に見て行きましょう。

大学院卒イコール研究職、ではない

現代社会において、大学院は、研究職志願者だけのものではありません

大企業を中心に、製品開発はもとより、品質管理や生産管理といった、一見「大学院卒」の教育水準が【オーバースペック】気味に思われる業務においても、大学院出身者が歓迎される傾向があります。

そういった企業は、大学院の教育内容より、むしろ、大学院での修学を通じて得られる、問題提起力や論理的思考力や問題解決力に期待を寄せているものだと考えられます。

実際、これを書いている筆者も大学院を出ていますが、研究職ではなく、民間企業でSEをやっています。

大学院進学を考えるなら、国公立大学への進学がベター

理工系学部を持つ大学について、大学院進学率を表にしました。

データは2018年10月時点のものです。

大学 学部・学科 定員+編入
(推定値)
進学者数 大学院進学率
関西大学
【私立】
システム理工学部
物理・応用物理学科
59 16 27.1%
システム理工学部
機械工学科
205 74 36.1%
システム理工学部
電気電子情報工学科
173 63 36.4%
関西学院大学
【私立】
理工学部
物理学科
- - 44%
理工学部
情報科学科
- - 39%
同志社大学
【私立】
理工学部
※学科別データなし
- - 50%
立命館大学
【私立】
理工学部
数学物理系
136 56 41.1%
理工学部
電子システム系
240 129 53.8%
理工学部
機械システム系
250 152 60.8%
京都工芸繊維大学
【国立】
設計工学域
電子システム
67 56 84%
設計工学域
情報工学
67 55 82%
設計工学域
機械工学
91 69 76%
大阪府立大学
【公立】
工学域
(電気電子系学類)
情報工学課程
電気電子システム工学課程
数理システム課程
電子物理工学課程
189 171 90%
工学域
(機械系学類)
航空宇宙工学課程
海洋システム工学課程
機械工学課程
132 103 78%
大阪市立大学
【公立】
工学部
機械工学科
53 39 74%
工学部
電子・物理工学科
40 33 83%
工学部
電気情報工学科
38 27 71%
兵庫県立大学
【公立】
工学部
(電気電子情報工学科)
- - 56%
工学部
(機械・材料工学科)

上記の「大学院進学率」算出の根拠となった元データは、以下サイトです。

国公私立別に見ると、国公立大学では7〜8割、私立大学では4〜5割の卒業生が、大学院へ進学しているという結果です。

関西圏の学校(機械・電気電子・情報の工学科)をサンプルに選んでいますが、関東圏ならびの他のエリアについても、国公立大学で7〜8割、私立大学で4〜5割という大学院進学率の数値に、大きな差はないでしょう。

進学率以外でも、以下のような理由から、国公立大学が大学院進学に有利です。

■大学院を考えるなら国公立大学が有利な理由

  • 経済的な負担が軽い 国公立大学が年額50万円、私立大学が同130万円くらいの学費(いずれも理工系学部の場合)であることを考えると、四年間、六年間で積み重ねると数百万円の差が出て来る
  • 真面目な学生が多い 国公立大学では、進学が当然という気風があり、地味だが真面目な学生さんが多い。周囲が勉強するので、自分も勉強しようという気になる

学力的に余裕がなければ、大学は私立、大学院から国公立という選択も

国公立大学は定員が少なく、競争率も高め。

もし、学力的に余裕のない高校生であれば、大学は私立へ進み、大学院は国公立を選ぶという選択をすることも可能です。

同じ大学からの内部進学者(例:京都大学から京都大学大学院)と比べると、他大学からの進学者(例:同志社大学から京都大学大学院)は、入試情報の入手でハンディとなる部分もありますが、基本的には平等な採点基準で合否が決められるため、不利になることはありません

ちょっと余談になりますが、珍しい学校として、大学を持たない、大学院だけの学校「奈良先端科学技術大学院大学」も存在します(国立で、すごくレベルの高い学校です)。

「附属大学」が存在しないため、学生全員が他大学出身のため、友人も作りやすそうですね。

研究レベルは京大・阪大にも引けを取らないもので、就職先も、世界的なブランド力のある巨大企業が中心です。

大学院入試って、大学入試とどう違うの?

大学院入試は、国公立であっても、日程さえ異なればいくつでも受験でき、入試科目も五教科を求められることもありません。

また、入試科目セットとして多いのは、英語、数学、専門科目、口頭試問

一科目につき2時間程度の試験時間があり、二日間にまたがって実施されるというケースが多いです。

大学院によっては、英語の試験時間中、辞書の利用を許可されているケースがあるのも、大学入試との相違点であり、知識よりも、思考プロセスが重視されていることが分かります。

なお、大学院入試の英語については、近年では、TOEICなどの外部試験を活用する大学院も増えています。

大学院出願日までに、成績表入手が間に合うよう、英語の外部試験を受験する必要があり、これを怠っていると、大学院入試に出願すらできなくなってしまうケースもあります。

大学院生活ってどんなもの?

まずは、授業時間の目安ともなる「単位」を使って、大学と大学院の授業時間を比較してみましょう。

学校によって違うかも知れませんが、以下の数字から大きく異なることはないでしょう。

■卒業に必要な単位数

  • 大学 四年間で124単位(31単位/年
  • 大学院 二年間で20単位(10単位/年

年間あたりに換算すると、大学と比べて、大学院では三分の一くらいの授業時間数となります。

授業の量が減る一方、質がヘビーになることも付け加えなければなりません。

大学院の授業は、少人数制。

第1回目の授業で、教科書の「予習当番」スケジュールを決め、その日の当番に当たった学生が、予習してきた内容を、クラス全員の前で解説するという「学生が学生に教える」スタイルが多いです。

予習が不十分であったり、和訳が間違っていたりすると(英語の教科書を使うことも珍しくありません)、教授や学生から手厳しいコメントが飛び交うこともあり、成績評価上、不利になることも……

「大学院の授業は、量が少ないぶん、質が難しくなる」ということですが、実を言うと、授業のない時間でも、自由気ままに過ごせるわけではありません

それが、「研究室」という存在です。

研究室にもよりますが、多いパターンは、「厳密な始業・終業時刻はないが、毎日研究室へ顔を出して、仕事をする」ということが暗黙の了解になっているケース。

大学院生になると、サークル活動をする人はほとんどいませんし、一日の大半を、自律的に過ごすことが求められ、【自由には責任がつきまとう】ことを実感するでしょう。

入学してから一年と経たないうちに就職活動が始まり、それと並行する形で研究を進め修士論文の材料集めにも走る必要があり、大学院生活は、あっという間です。

■大学院生活のメインイベント

  • 4月(1回生) 大学院入学式
  •       〜 授業を受けて「単位」をそろえる
  • 4月(2回生) 就職活動を開始
  •       〜 学会発表、研究活動
  • 2月      修士論文公聴会
  • 3月      大学院卒業式

すこしは、大学院生活を具体的にイメージできるようになったでしょうか?

「どの学校か」vs.「どの研究室か」

見落とされがちな事実ですが、どの大学院へ進むかより、どの研究室(どの先生)で学ぶかということが、より重要になってきます。

もっとも、研究内容に強いこだわりがなく、「将来キャリアの一環として大学院の学位を取っておこう」程度の気持ちであれば、どこの研究室でも構わないという考えもあります。

しかし、「将来やりたいことが明確に決まっているため、どうしても、△☆◆の分野をやりたい」という具体的ビジョンがあるなら、大学院を受験する前に、研究室を訪問して、自分で確認するべきです。

研究室訪問しなかったからといって不合格にはならないと思いますが、研究室のメンバーから、内部事情を聞けたり、大学院入試のアドバイスをもらったりする、絶好のチャンスにもなります。

大学院入試は4回生の夏前後であることが多く、研究室訪問するとしたら、四月〜六月に済ませるという、ざっくりとしたスケジュール感覚を持っておきましょう。

複数の専門分野を持つという選択肢も

日本社会では、大学時代の専門分野を、大学院でも引き続き学ぶことが主流です。

一方、海外では、大学と大学院で専門分野が違っているケースも珍しいことではありません

たとえば、大学時代は機械工学(ロボットのメカニズム、機構部)をやっていたが、大学院では情報工学(ロボットに搭載する人工知能)をやるというキャリアを進むことにより、ロボットという専門を「軸」に持ちながらも、複数の専門分野を学び、複眼的に考えられる研究者になることが可能になります。

大学へ入ってから、やりたいことが複数見つかった場合、大学と大学院で専門分野を変えてしまうという判断をするのもアリです。

もっとも、その場合には、大学での専門分野に加え、大学院入試を突破するために必要な「副業先」の専門分野についても、かなり勉強しておく必要があるため、相当ハードであることは言うまでもありませんが……

大学院進学のメリットは?

企業の求人情報を見ると、大卒、院卒の間で、初任給に二万円程の差があることに気づいた人もいるでしょう。

初任給の差だけではなく、院卒は(一般的に給与水準の良い)優良企業へ入りやすくなるため、仕事人生スタート地点での給料が異なるというのは、大学院へ進学することのメリットとも言えます。

また、大学院での研究を通じて培われる【問題提起力】や【論理的思考力】は、働き始めてから結構役に立ちます。

一方、大学院で学んだ専門分野の知識については、まったく役に立たなかった人、そのまま仕事に直結している人など、まちまちです。

大学院進学のデメリットは?

大学院を出た新入社員を見ていて思うのは、ちょっと「理屈っぽい」傾向が強いことです。

実社会では、何もかもが机上理論に整然と則って進行することはありません

ある程度「これは仕方ない」と割り切るバランス感覚を身につけていく必要性があるにもかかわらず、院卒社員には、ここの折り合いをつけるのが不器用な傾向があります。

同年齢でも、大卒社員は、院卒社員よりも二年、社会人経験が豊富であるため、スタートダッシュでいかにして同年齢の社員はキャッチアップするかは、すべての院卒新入社員に共通する課題と言えます。

まとめ:迷っているなら、理工系はできるだけ大学院を含めたキャリア構想を

いかがでしたでしょうか。

【大は小を兼ねる】的な発想になりますが、大学院進学で迷っている場合、経済面では大学院進学を想定した予算を立て、学力面では、大学院入試を突破し得る水準を保てるように、準備をしておきましょう。

「やっぱり大学院へ行かないことにした」という変更は簡単ですが、逆の変更は、そう容易にはできないからです。

最後に、どこの大学院入試を受けるにせよ、理工系分野では、英語と数学が必ず必要になるため、高校時代、大学時代にしっかりやっておきましょう。

大学院入試は、英語と数学さえできれば、専門分野は、そんなに難しくないことが多いです。

本記事が、一人でも多くの方が大学院進学について考え始めるキッカケとなれば、本当に嬉しいです。

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(おしまい)

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Ajikichi

「美味しくなければ旅じゃない」が口癖。旨いものを求め、約三十か国を食べ歩く中で、台湾・ベトナムが誇る「感動的食文化」との運命的出会いを果たす。毎年、十回ほど「外食」と称して渡航。 仕事はエンジニアをしており、デザイン思考が気になる今日この頃。

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