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桃園空港線MRTの開通により「観光可能エリア」が拡大。ただし、「どこで下車したら面白いか」が分からない……

桃園空港と台北市街地を移動する、新しいオプションとしてMRTが誕生
今回の特集では、2017年の春に開通した、桃園空港線MRTにスポットライトを当てよう。
最初にことわっておくと、本記事は、桃園空港から台北市街地(あるいは、その逆ルート)のMRT乗車体験レポートではない。
ほとんどの利用者が、桃園空港、あるいは、台北市街地で乗り降りする中、あまり注目を浴びることのない【途中区間】を観光してみようという企画である。
この【途中区間】、もしMRTが開通してなかったら、観光客が気軽に近寄れない「陸の孤島」エリアのままであったことを考えると、MRTが開通した今、台湾ファンなら、是非とも、おとずれたいスポットであるとも言える。

おもしろそうなエリアではあるが、何をどう楽しんだら良いのか、情報が不足している
ひとつ問題なのは、【途中区間】には、およそ二十もの駅があり、一つひとつ途中下車するのは、時間も労力もかかること。
インターネットでは、MRT沿線の情報がチラホラ公開されているものの、具体的な「観光ツアー」という形に落とし込んで、このエリアの面白さについて紹介した記事は見当たらない。

アジ吉の、旅人根性に火がついた。
ネット情報のチカラを借りて、世界に一つの「面白ツアー」を具現化

そう考えたアジ吉は、インターネット上で散り散りに分散している、入手可能な限りの情報をかき集め、分析。
その結果、たどりついたのは3つの結論だった。
- MRT沿線のグルメ、歴史的建造物の分布をチェックした結果、「坑口駅、山鼻駅、林口駅」の3駅かいわいに観光資源が集中
- これら3駅は、距離的に近く、半日ツアーとして、パッケージ化が可能
- Google Mapで調査した結果、山鼻駅下車で朝食スポットが複数あり、林口駅下車で牛肉拉麺の名門店があるため、山鼻駅付近で朝食、林口駅付近で昼食を食べるくらいのタイムテーブルで旅程を組むのがベスト
これら3駅の地理的位置を確認するため、地図を掲載しておく。

坑口駅、山鼻駅、林口駅は、距離的にも近い。一つひとつの駅界隈に見所もあり、セット観光に最適な「三兄弟」
「坑口駅〜山鼻駅」は、ウォーキングで小一時間ほどなので、歩いて移動。
「山鼻駅〜林口駅」は、10kmほど離れているため、MRTに乗って移動。
ザックリではあるが、「坑口駅〜山鼻駅」エリア、「林口駅」エリア、それぞれの観光マップも掲載しておく。

「坑口駅〜山鼻駅」エリアの観光マップ。赤線は、徒歩でも一時間弱くらいのウォーキングだ

「林口駅」エリアの観光マップ。林口駅から、各スポットへは、バス移動が便利
以下のタイムテーブルは、移動時間、観光時間、食事時間コミコミで、ざっくりめの時間配分。
完全オリジナルなので、「世界に一つ」のツアーである。
08:00 | 坑口駅下車
「アートビレッジ」訪問(別名:坑口社區彩繪村) ローカル感たっぷりの街に溶け込んだ「芸術」を楽しむ(30分間) |
09:30 | 徒歩で、山鼻駅へ向けて移動
途中、朝食店で台湾朝ごはんを楽しむ 「徳馨堂」見学 |
10:00 | MRTで(山鼻駅から)林口駅へ移動
混雑を避け、早めのランチを地元名門「老占元拉麵大王」で 食後、荘厳な「竹林山觀音寺」を見学 |
13:00 | 観光終了し、林口駅へもどってくる |
時間は半日くらい、予算は二千円くらいで、楽しめるツアー設計だ。
それでは、出発してみよう。
坑口駅:誠聖宮、アートビレッジ(坑口社區彩繪村)

坑口駅からアートビレッジに向かう道中「誠聖宮」が出迎えてくれる
坑口駅からアートビレッジに向かうと、徒歩五分くらいで立派な廟、「誠聖宮」が出迎えてくれる。

ひょっとしたら、コンビニはなくても、廟があるということが、台湾国内、すべての街について言えるのかもしれないと思った。
ここ坑口にも「誠聖宮」がある。

ピカピカにメンテナンスのゆきとどいた廟内
古さを感じるが、内部はキレイに保たれており、地元の人々が大切にメンテナンスしていることが分かる。
こういった廟を守って行く伝統が、若者世代にも継承されているのか、ふと気になったりもした。

廟内に「豚」出現。「アートビレッジ」の近くまでやって来ているのだ

バサバサの「まつげ」が取り付けられている

廟の神様たちにご挨拶

壁は、マッチ箱サイズくらいの、小さな仏像で埋め尽くされている
壁には、大量のミニチュア仏像が埋め込まれている。
よく見ると、名前プレートが貼っているところ、そうでないところが混じっている。
廟へ寄付金をすると、一定期間、名前を乗せてもらえる、いわゆる「広告」的なものだろうか。

アート豚

おしりにも、アート
廟を出ると、ちかくの駐車場に「アート豚」が。
凸凹する曲面に、どうやって描いたのか感心するほど、器用にアートされている。

民家の壁にも、さりげなくアート

工場の壁にも、しっかりアート
来てみて分かったのは、「アートビレッジ」とは、高尚な美術館のたぐいではなく、街そのものへ溶け込むようにして、民家や工場の壁を「キャンバス」がわりにアートした街のことだった。
また、身近な「アートビレッジ」と言えば、直島(香川県)が思い浮かんだので、おそらく「町おこし」的に大々的なイベントとしてやっているものを想像していたが、ここは違っていた。
街の人たちが(自分たちで絵を描くのが)ただ純粋に楽しいから、集客など最初から度外視して、昔からずっと描いていた、というかんじ。
洒落っ気ゼロのアートに、「絵師」たちの心意気を感じた。

とにかく、絵で埋め尽くされる壁たち
夢中になって、スマホで写真を撮りまくっていたら、いつの間にか車道の上に。
しかも、アジ吉のせいで「信号待ち」になっている車の列が……!!!
アートビレッジである特性ゆえか、ドライバーの皆さん、クラクション一つ鳴らさず、待ってくださっていたのである。
ぺこりと一礼して、大慌てで歩道に戻ったのは、言うまでもない。

道路のフォントも、個性を感じる
「集客ねらい」とは無縁で、ほんとうに「ただ昔から、ここ一帯にあった」ことが伝わる「アートビレッジ」の素朴さにほっこり。

そんなことを考え、「坑口駅」から「アートビレッジ」を経て、「山鼻駅」の方向へ朝ウォーキングを楽しむアジ吉。周囲は、畑の風景が広がり、たまに工場がポツンと建っているだけの「台湾の田舎街」といった雰囲気。
朝食屋が、こんなひと気のない場所に店を構えるとは考えられない。はて、どうしたものか。

美味しい朝食屋を見つけることは、とっくに諦めて、いまはフツーの朝食屋、あるいは、コンビニでも見つかれば十分というレベルにまで気分が盛り下がってきた。
山鼻駅:地元っ子で大繁盛する朝食屋、築百二十年の民家「徳馨堂」
「山鼻駅」まで、あと徒歩十分くらいという距離に来たところで、商店が道の左右に並ぶ、こじんまりとした商店街といった様相の街角が視界に入ってきた。
台湾の美味しい店って、あか抜けない立地条件のところに見つかるケースも珍しくない。

いやがうえにも、期待は高まる。

「坑口駅」から「山鼻駅」へ向かう道中、地元っ子で大繁盛する朝食屋を発見
そう思っていたら、案の定、地元っ子の人だかりができる「一軒」を発見。
周囲にも数件の朝食屋が営業しているけれど、この店が「一強」といったかんじで、ライバル店と呼べそうな店も皆無。
台湾にはよくあることだが、人気店であるにもかかわらず、看板はかかっておらず、店名は「ない」。
思わず入店し、店頭に並ぶ、数々の魅力的な「小吃」から、本命を数品チョイス。

ミンチ肉が投入された、ほかほか中華焼きそば
まずは、ミンチ肉がガッツリ投入された、中華風の焼きそば。
その上に、ドーーーンと目玉焼きを乗っけてもらう。
日本の夜店で売られているような、濃い口ソースの味付けではなく、「京風出汁」と書けば多少大袈裟になるが、そんな感じのアッサリ風味に仕上がっている。

朝一番に食べても、箸が自然に進む一品。

野菜まん
お次は、肉まんならぬ「野菜まん」。
台湾では一般的な料理であり、中には、キャベツ、ネギ、春雨などの具材がギッシリつめこまれ、ラー油のような、ちょっとピリ辛の調味料で味付けされている一品だ。
二つ注文したので、ちょっとオーダーしすぎたかと思ったが、五分くらいでペロッと平らげてしまった。
お腹がいっぱいになったところで、ウォーキングを再開。

水量が少ないのは、乾期のせいだろうか
乾燥したシーズンのせいか、水量が少なくなっている川も。
さらに五分ほど歩くと、「徳馨堂」に到着。

「徳馨堂」の、いわば玄関にあたる門

「徳馨堂」を正面から
およそ百二十年前に建てられたという。
「年齢」を聞いてもピンとこないのは、この建物の保存状態が、すこぶる良いからであろう。

「陳」とは、この建物のオーナーの名字

建物内部
建物内部は、すこしホコリっぽい。
誰でもが自由に見学できるよう、ドアが開けっ放しにされているせいであろう。
それでも、定期的に清掃されているようで、床はホウキをかけたような形跡があった。
「徳馨堂」観光を終え、MRT山鼻駅へ。

「山鼻駅」の真正面には、何もない
もともと何もなかった場所を開拓して、台北からMRTの線路を伸ばしてきたのだろう。
「駅のド真ん前」という、超一等地であるにもかかわらず、周囲には空き地が広がる。
まだまだ、これから成長して行く街だという印象を受ける。

MRT「山鼻駅」の構内
桃園空港線MRTの駅は、どこも、新築ほやほや。
新しい建物に独特のニオイが残っており、本当に「新品」なのだと実感できる。
林口駅:牛肉スープが超人気の地元名物「老占元拉麵大王」

電車がピカピカならば、駅もピカピカ
「山鼻駅」から「林口駅」へは、徒歩では厳しいので、MRTに乗って移動。
真新しい車両から出ると、降り立った駅そのものも「新品」そのもの。
これだけ立派な施設なのに、利用客がまばらであることには、違和感を覚えた。

建設中のマンション
MRT林口駅のすぐ前には、建設中のマンション。
霧が立ちこめており、上階は霞んで見えなくなっているあたり、かなりの高階層マンションなのだろう。

それもこれも、ここ林口の街が、どれだけ成長できるかに、かかっている。

悠遊カード。「ICOCAの台湾版」的なもの
MRT林口駅からは、「竹林山觀音寺」へ向かうバスに乗る。
「ICOCAの台湾版」的なものとして、「悠遊カード」があり、交通費が割引になる他、コンビニの支払いにも使えて、大変便利。
台湾のバスは、ちょっと仕組みが複雑。
「悠遊カード」をタッチするタイミングが、3パターンある。
- 乗車時のみタッチ
- 下車時のみタッチ
- 乗車時も下車時もタッチ
3つのうち、どのパターンか、よく分からない場合は、地元っ子のマネをすれば問題ない。

牛肉スープで有名な「老占元拉麵大王」
ここ林口の街では、おそらく、この店を知らない人はいないだろう。
そう言っても過言ではないほど長い行列のできるお店が、「老占元拉麵大王」。
とは言え、開店時間直後をねらって入店すると、並ばされることなく、比較的空いた店内で落ち着いて食事できるので、オススメだ。

牛肉スープ
牛肉は、絶妙なスライス具合。
薄すぎて物足りなさを感じることもなく、かつ、厚すぎて完食するまでに胃袋がパンパンに膨れることもない。
スープは、素人舌にも、長時間かけ丁寧に出汁をとったことが分かる、滑らかな味わい。

乾麺
牛肉スープが専門の「老占元拉麵大王」だが、個人的には、ここの乾麺が「ド」ストライクゾーンに命中。
「乾麺」という名からはパサパサの麺を想像するが、チュルチュルっと潤った食感であり、同時に、適度な歯ごたえのある麺が秀逸。
麺だけでも、日本へ持って帰りたかった。
「牛肉スープ」と「乾麺」を交互に食べるのが楽しくて、両方が同時に終わるよう、ペース配分に気をつけて、箸をすすめた。
胃袋が満たされたところで、ここから徒歩五分も歩けば、次の目的地だ。
店名 | 老占元拉麵大王 |
住所 | 新北市林口區林口路120号 |
営業時間 | 10:00~20:00 |
林口駅:荘厳という言葉がドンピシャの「竹林山觀音寺」
ツアーの最後をしめくくるのは、「竹林山觀音寺」。
正直、今回の「ツアー」としては、これまでに巡ってきたスポット、口にしてきた料理だけでも、アジ吉としては満足ゆくものであった。

ついでのつもりが、何を隠そう、本日のハイライトはここだと言っても良いほど、すごい寺だった。

「修行中」の僧侶オブジェ
境内の湖には、入水して「修行中」の、僧侶オブジェ。
B級スポットフェチのアジ吉としては、一気に期待が高まる。

橋が水面に映って、湖面に「もう一つの橋」があるようにも見える

境内はとにかく広い

境内を散策

三蔵法師のオブジェ
三蔵法師の人形が設置されている。
小さい子を連れてきても、楽しめそうな工夫が、あちこちに施されてある。
人形たち混じるようにしてセルフィーを撮影してから、五分ほど歩くと、非常に立派な門が登場。

この世のものとは思えない立派な門
とにかく、ため息が出そうになるほど、豪華絢爛な造り。
細部も手を抜かず、いっさいの妥協なしに、コツコツ仕事をした職人たちの息づかいが聞こえてきそうである。

「竹林山觀音寺」の主殿
荘厳、のひと言に尽きる。
広大な境内をウォーキングしてきたが、ついに「竹林山觀音寺」の主殿へ到着したのだ。
とにかくデカい。
写真の中に写っている「人」と比べたら、いかに壮大なスケールの建造物であるかは、察していただけるだろうか。
小さな島国・台湾の、ましてや、観光客が誰も知らないようなマイナーな街に、これだけスケールの大きな寺があったとは、感動がとまらない。
しばらく、主殿の前で、見とれてしまった。

紙でできた「お金」
境内は、地元っ子のみならず、大型バスでやって来た(おそらく地方都市からの)参拝客でにぎわう。
紙でできた「お金」をお供えする人々の姿も。
亡くなった親族が、ムコウノセカイでも困らないよう、燃やすことが儀式化している。
ちなみに、金色の「お金」もあるが、それは神さま向け。こっちのは、人間むけ。

日本人としては、たとえ外国語であっても、大量の漢字を見て安心してしまう
「竹林山觀音寺」のスグ近所には、こじんまりとした飲食街がある。
きっと、夕方に訪れると、まるで『千と千尋』のように雰囲気あふれるスポットなのだろう。
名称 | 竹林山觀音寺 |
住所 | 新北市林口區竹林路325号 |
ふりかえり
開通後、一年も経たない「新車」に乗り、ドキドキ途中下車した街々。

そう思ってスタートしたので、ある意味「ミステリーツアー」とも言える半日遠足だったが、もはや覚醒寸前レベルに旨い乾麺と出会ったり、首都・台北でも見たことのない荘厳な世界観の寺があったり。何もないどころか、見応え十分の観光ルートだった。
五時間(移動、食事、観光)、二千円(食費、交通費)でも、ここまで楽しめる観光スポットがあったとは、まだまだ台湾、知らないことばかりだと思いつつ、筆を置くアジ吉であった。