プロローグ
ここでは、「旅を思い立ってから、祭りの当日朝まで」の小話をご紹介。
友人から「招待状」。平日のすごい時間帯に開催される台湾のお祭り
すべての始まりは、友人(台湾人)から届いた一通のSMSだった。
パレードの名は、松山慈恵堂・台北母娘文化季「保民巡行カーニバル」。
一枚の画像が添付されていたが、それは、パレード隊の予定ルート図であった。
画像をチェックしてみたら、祭りは二つの日程で行われるようだ。
- 5月1日(火) 22:00〜
- 5月4日(金) 09:30〜
たしかに、日本人にとってはゴールデンウィーク連休期間中だが、台湾人にとっては、両日とも、モロ平日。
しかも、平日22:00や、平日09:30って……
いったい、誰が参加できるのか不思議になる日時設定であるが、これも、いたって台湾式。
台湾の祭りは、「平日の朝」など、一般市民にとって、「不都合」な日時に催行されることも、ごく普通。祭りの催行日時は、占いの結果であり、神様の意思をくんだ決定事項であるため、やむを得ない。
後述するが、平日の午前に開催しても、人々がそれなりに楽しめる「工夫」が、台湾の祭りには隠されている。
台湾人でも勘違いした「僅差」ちがいの廟。ハプニングから一日開始
祭りの前日、心配性の友人から、SMSが届く。
かくして、5月4日の午前9:00ちょうどに、「松山慈祐宮」へ到着。
祭りの開始時刻まで三十分あるので、時間的には余裕の到着のはずであった。
大変興味深い「松山慈祐宮」境内をつぶさに観てまわって、別途、記事にした。
時間に余裕があるときにでも、是非、参考にしていただけると嬉しい。
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松山慈祐宮|1753年建立「駅チカ&六階建て&エレベータなし」の由緒ある廟には、大勢の神様が祀られていた
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ところが、祭りの開始時刻になっても、まだお祭りが始まる様子どころか、準備すら始まっていない。
このとき、ようやく異変に気づいた。
廟の中で、五人ほどの地元っ子に「祭り」のことを質問してみるが、皆口を揃えて知らないと返すか、なんらかの返事はしてくれるが、回答内容はあてにならないものであった。
疑心暗儀になったそのとき、はるか遠方でパーーーンという火薬が弾ける音が鳴り響いた。
台湾では、祭りを始めるときのお決まりごとなので、あぁ、これは本当にお祭りの日なんだという実感が湧いてきた。
急いで、廟から外に出てみると、遠方にケムリが昇っているのを、かすかに認めることができた。
この日は風が少し強かったので、ケムリは「蜃気楼」のように近づこうとすると跡形もなく消えて行くので、パレード隊の場所を特定することは困難を極めた。
道中で見かけたニャンコに質問したくなるくらい、困った。
「一か八か」の賭けだったが、パレード隊のルートを逆回り(ゴールからスタートへ向かう)で歩き始めた。運が良ければ、途中で合流できる可能性がある。
一眼レフの望遠レンズを「双眼鏡」がわりに、探しまくること、二十分間。
奇跡的にも、出発寸前のパレード隊と合流できた。
まるで、はるばる日本からやってきた訪問者のため神様一同が「待ってくれていた」のかもという気がして、胸が熱くなった。
ところで、パレード隊が、ぜんぜん違うところからスタートしていたことには、二つの理由がある。
一つは、非常にまぎらわしい、似通った名前の廟が、二つあったこと。
「松山慈恵堂」と「松山慈祐宮」だ。これを取り違えていた。
いわば漢字ネイティブである、友人(台湾人)もぼく(日本人)も気づかないくらい、字面が似ている。
そして、もう一つこそ、次なる「トリビア」である。
台湾の祭りは、パレード隊のルートがランダムに変更されることは、けっこう頻繁にある。事前に配布される、案内チラシの「予定ルート」は、本当に、あくまでも予定に過ぎない。詳細理由は不明だが、友人(台湾人)に聞いたところ、これも「神様の意志でコロコロ変わっちゃう」説が濃厚だとのこと。
以下に、「祭りアプリ」の画面例を参考資料がてら、付しておく。
台湾の祭りは、パレード隊の動きをリアルタイムに追うための、専用スマホアプリが開発されていることも珍しくない。
GPS情報を活用しているので、自分とパレード隊の位置関係を一目で確認できる便利ツール。
以下では、実際の祭りの様子を、カテゴリ別に分けて、ご紹介しよう。
ぶっとんだ神様たち
台湾の個性豊かな「神様」についてご紹介。
やんちゃな神様「哪吒三太子」。特技はテクノ音楽ダンス。走って、ハイタッチも
まずは、こちらのYouTube動画を参照にして欲しい。
「電音三太子」と呼ばれる、テクノ系音楽に合わせて、ノリノリでダンスする神様たちの動画である。
動画中の「ダンサー」こそ、ゲジゲジまゆげ、クリクリ目玉の神様「哪吒三太子」。
見ての通り、ひょうきんで、やんちゃ者である。
昔、クラスに一人はいたような「お調子者」のキャラクターそのもの。
とにかく、中に入っている「人」は、脱帽モノの演技力である。
体の動きに合わせて、目玉がクリクリ動くようになっているため、まるで生きているかのように、表情豊かになる。
「あ、いいこと思いついた」
そう言いたげな仕草をしたかと思うと、ショーウィンドウを覗き込んで、店員さんやお客さんに、愛嬌を振りまく。
「哪吒三太子」役には、決してジッとしてはいけないという不文律がある。
神様ごとにキャラ作り「設定」がこまかく決められているのも、台湾のお祭りのお楽しみポイントだ。
ときには、全力疾走したり……
ときには、ハイテンションでポーズを決め込んだり……
あるいは、こんなこともある。
ガンバりすぎちゃって、街角の自転車をたおしてしまい、通行人に手伝ってもらいながら、自転車を起こす姿も。
とにかく、茶目っ気たっぷりの神様、それが「哪吒三太子」である。
通行人へのサービス精神は、片時も忘れない。
写真ごとに妥協なくポーズを決める。
ハイタッチにも、一人ひとりに、全力で応じる。
このフレンドリーさもあり、行く先々、常に人気ナンバーワンと言っても良い、台湾の神様である。
通行人を笑顔にするという点においては、この「哪吒三太子」の右に出る神様はいない。
とにかく、「人見知り」しなさが、すごい。
「大阪のおばちゃん」を凌駕するレベルで、打ち解ける、打ち解ける。
お巡りさんとも、オトモダチ……
外国人とも、オトモダチ……
一人でいるときも、「ボケる」のに忙しい。
バス停で、まるで「待っている」かのようなポーズを取り、人々の笑いを誘っている。
いくら元気な「哪吒三太子」といえど、中身は「人」。
祭りの後半では、ヘタってしまい、道ばたでコッソリ座っている様子も……
ちなみに、祭りパレードを走行する山車には、イラスト版の「哪吒三太子」が描かれている車体も見られる。
それでもやっぱり、「哪吒三太子」は元気よくアクションしまくる、着ぐるみに限る。
身長二メートル超の大きな神様は、「神様を守る神様」。その名も「神将」
巨体の腕を揺さぶりながら、厳めしく歩いているのは、「神将」と呼ばれる、台湾のお祭りには欠かせられない重要キャストだ。こちらのYouTube動画の、45秒目くらいの映像が参考になる。
さきほどの「哪吒三太子」とは正反対のキャラで、ただただ、厳めしい雰囲気を放つだけで、笑いも踊りもしない。
それもそのはず、自身も神様でありながら、(媽祖をはじめとする)神様を護衛する、いわば「神様を守る神様」という、おカタい役割を担っているのだ。
この「着ぐるみ」は重量四十キロほどにもなるため、大人であっても、三人ほどで協力して作業しなければ、着脱することはできない。
また、「着ぐるみ」の中に入る人は、祭りが近づくと、飲酒や性交をひかえ、身を清らかに保たないといけないという「指切りげんまん」つき。
重たい装備を着て歩くだけじゃない、二重の意味で「重役」ポストでもあるのだ。
あまりにも背丈が高いため、人の顔が出る「小窓」は、おヘソのあたりに位置している。
この人形は木製であるため、内部は、気温と湿度が高くて大変な「労働環境」であることは、想像に難くない。
顔が色とりどりなのも「神将」の特徴。
肌色、白色、紅色、そして黒色などが見られる。
台湾の祭りでは、神様ごとの「キャラ作り」が必要。
また、祭りが近づいたら、「着ぐるみ」担当者は飲酒や性交がタブーとなり、身を清らかに保つことも求められる「重役」ポストである。
がんばる人々
がんばるのは、神様だけではない。祭りで大活躍する「人々」をご紹介。
京劇の雰囲気を「出前配達」しにやって来た役者さんたち
何も、パレードの「登場人物」は、神様だけではない。
京劇舞台から飛び出してきた役者さんたちも、いわば、京劇の雰囲気を「出前配達」しに来たといえよう。
炎天下のパレードで疲れていようと、写真撮影へ気さくに応じてくれる、プロフェッショナル根性。
また、待ち行く人々へ、飴を配って歩く様子も見られる。
人々へ配っているのは、飴だけじゃなさそうだ。
平日で祭りに参加できない一般市民のため、パレード隊として、街中を歩き回り、ときには、学校や職場へも入り込む。
そこでは、人々を驚かせたり、飴を配ったりして、みんなを笑顔にしている。
驚異的な集中力&身体能力。必見のライオンダンス(獅子舞)
出発から四時間ほどが経過し、時刻は、午後二時過ぎ。
数百人のパレード隊は昼食休憩へと突入したようで、こじんまりとした「興安公園」に、所狭しと腰掛けて休んでいる。
その傍ら、ひときわ賑わう一帯があった。
中華系の祭りではお馴染み、「ライオンダンス(獅子舞)」。
かなり本格的で、一辺が40センチくらいしかない正方形状の「踏み場」上にて、二人羽織のライオンダンスが行われるスリリングなもの。
ジャンプの瞬間……
着地の瞬間……
どれだけ高くジャンプしようと、着地するときは、一辺が40センチに満たない「足場」へ着地しなければならず、観ているものが手に汗握るパフォーマンス。
難易度の高い空中ジャンプを成功させたライオンは、湧き立つ群衆めがけて、飴を振る舞う。
飴には、ご利益があるのだろうか。
皆、こぞって飴をキャッチするのであった。
一般市民の皆さま
神様、職業京劇芸人、ライオンダンスの他にも、一般市民の参加形態は実に様々。
こちらは、息のあったチームプレイが要求される「龍舞」グループの皆さん。
写真撮影にも、気さくに応じてくれる。
カメラを向けると、りりしくなった兄さん。
疲れていても、ニコリと微笑んでくれる。
笑顔の爽やかさが印象的。
まだあどけなさの残る女の子。
「山車」の上で、太鼓を演奏する大役を担っている。
平日の祭りに子どもたちも参加していることから推測がつくけれど、台湾の祭りでは、学校を休んで参加する子もいるのだろう。
もちろん、大人でも、仕事を休んでいる人は大勢いると思われる。
仏教国であり、日々の廟通いにも垣間見られる、信仰心の厚い国民性。
こういった祭りは、年に何度もあるが、参加する人々は、学校や職場からも、きっと気持ちよく送り出されているのではないだろうか。
神様を運ぶ人々あれば……
会社前の道路に「祭壇」を作ってパレード隊を待ち受け、通過する神様に祈る人々も……
パレード参加者には、女性が多いことが目立つ。
それもそのはず、パレードのタイトルは「母娘文化季」というくらいなのだから。
台湾の祭りは、平日に開催されるケースもよくある。学校や職場を休んで祭りに参加する人々も多い。
学校や職場を休めない人々のために、パレード隊が、学校や職場を訪問することもある。
トガった乗り物たち
神様、人々の次は、「乗り物」をご紹介。
某ねずみランド系にド派手な「山車」たち
「母娘文化季」という名からも分かるように、女性が主役の祭りである。
道行く「山車」の表面は、女性らしいカラーの花で覆われており、まるでテーマパークさながらの雰囲気。
それぞれの「山車」には、神様が乗っている。
神様の風貌も、「山車」ごとに様々なので、眺めていて飽きることはない。
ちょっとデフォルメ気味な神様……
結構リアルなようで、ヒゲの付け方が、相当やっつけ仕事の神様……
四十台のハーレー・ダビッドソンが一斉に火を噴く
ここは、万事が「お気楽モード」な南国・台湾。
仏教系イベントだけど、早い話が、「なんでもあり」で「楽しさ第一」である。
祭りで、とりわけ存在感を発揮する、大型バイクの群れ。
台湾の「ハーレー」愛好家が集まったグループ。
重量感たっぷりのボディへ見合うように、巨大なエンジンが搭載されている。
どのバイクもオーナーが大切にしているようで、隅々までピカピカに磨かれている。
外見通り重量感ある、地響きのようなドッドッドッというエンジン音が大地に放たれる。
一台でも存在感十分の「ハーレー」が四十台も集まり、一斉にエンジン音を鳴らして出陣する姿は、祭りを大いに盛り上げている。
仏教系イベントで、まさかの痛車コレクション
ここまで来たら、もう笑うしかない。
「ハーレー集団」の存在感を蹴散らかすように、異色のムードを放つのが、泣く子も黙る「痛車」たち。
仏教系祭りを「口実」にすれば、多少のやんちゃは許容される「無礼講」ということだろう。
台湾には、そういう大らかさがあるので、大好き。
キティも……
某ねずみーランド出身のカップルも……
極めつけが、これである。
なんと、火炎放射器のように、炎を吐き出すエントツが、車の上に「搭載」されてしまっており、音楽に合わせて、点火するという「自由さ」。
パレードの無事を祈ってくれているのだろうか。
神様の人形が、ボンネット上に「鎮座」している様子も。
スピーカーの淵が、蛍光色LEDで点灯する車種もあった。
きっと、夜間パレードでは大活躍すると思われる。
台湾の祭りは、「楽しさ一番」。
祭りを盛り上げることが、何よりも重用視されており、そのための手段は、「ハーレー」、「痛車」、何でもウェルカムみたいだ。
エピローグ
ここでは、「その他トッピング」的な小話をご紹介。
働かざる者、食うべからず。炊き出しランチの「アテ」が外れた
午後二時、パレード隊一同は昼食休憩時間に突入。
炊き出しが振舞われるが、あいにく、パレードへ直接貢献した人だけに配布されるスタイルの様子。
たんなる観光客であり、パレードに「金魚のふん」のごとく着いていっただけのアジ吉には、「炊き出し」ゲット資格なし。
台湾の祭りは、炊き出しが、誰にでも無料で提供されているケースが多い。ただし、例外もあって、パレードへの直接の「貢献者」にだけ、炊き出しが行われる場合もある。
一般的には、祭りの規模が大きいほど、炊き出しが振る舞われるチャンスが増える。
しかたなく、自力でマイ・ランチにありつくため、「興安公園」のすぐ近くにあった「金仙蝦捲魯肉飯(興安店)」へ、かけこみ入店。
正直、このお店のことは、全然知らなかった。
見渡す限り、営業中の飲食店はここ一軒だけである上、店の前に人だかりができているわけでもないので、「人気」も「実力」も推測する術がなく「一か八か」での入店であった。
ここでのグルメ体験は、けっこう衝撃的だったので、別途、記事にまとめた。
台北でのグルメ発掘に興味のある方は、是非チェックいただけると嬉しい。
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台湾のお祭りで「炊き出し」のアテがハズれて落涙するも、絶品グルメ店と出会う。人生万事塞翁が馬
目次1 お祭りのパレード隊と歩いてやってきた公園で、昼食休憩時間に突入1.1 「炊き出し」のアテがはずれる1.2 参考)「台北母娘文化季」の様子について2 他に選択肢がなく「しゃーなし」入店の一軒だったが……2.1 料理チョイスは店員さんへ ...
なお、「南京復興駅」から徒歩十分と、台北市街地の、ちょうど「ド真ん中」に位置する。
台北のどこを観光していても立ち寄りやすいアクセスの良さも、魅力的だ。
本場・中華圏の爆竹。爆竹慣れした台湾の人々
最後の話題として、台湾の祭りに欠かせない「爆竹」にもスポットライトを当てよう。
本場・中華圏ということもあり、爆竹の使用量には上限なしといった感じの「特盛り」。
地面に爆竹を設置し、着火をした後は、まったく慌てる様子なく、不自然なほど落ち着いて爆竹から遠ざかる台湾の人々はグレート。
台湾の人々にとっては、爆竹に点火することなど、日常茶飯事なのかもしれない。
ただ、「爆音を聞く」となると、たとえ台湾の人々といえど、何度聞いても「慣れ」られるものではないらしい。
老若男女、だれもが耳をふさいでいる。
爆竹がケムリを立てながら爆発するのを、音はほどほどに、ビジュアル面で楽しんでいるようにも感じられた。
たしかに、爆竹が閃光を放ちながら、ケムリをまき散らかす様子をながめていると、日頃のストレスが吹っ飛んで行くような気持ちなれる。
爆竹は、瞬く間に「燃えかす」へと姿を変えてしまう。
パレード隊の人々は、ホウキとちりとりを携帯しており、きちんと道路をきれいにしてから、立ち去るのであった。
以上、ざっと駆け足ではあったが、松山慈恵堂・台北母娘文化季「保民巡行カーニバル」の様子をレポートしてみた。
例年、日本のゴールデンウィーク連休期間とかぶることも多いイベントなので、是非とも来年は台湾旅行がてら、パレードへ参加してみてはいかがだろうか。