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はじめに:現地エンジニアに「歩み寄る」には、「知る」ことから始めよう
こんにちは。
海外子会社や、現地ソフトウェア開発会社をビジネスパートナーとして、いわゆる「オフショア開発」に携わると、日本国内の企業とやりとりする場合と比べ、【想像できないような出来事】が次々と起こります。
度重なる納期遅延の末、やっと納品されたシステムを検品してみると、バグまみれで使い物にならない。
多くの場合、こうなってしまう理由は、発注元(日本)、発注先(主として海外の発展途上国)の両サイドに潜んでおり、決して、どちらか片方だけが悪いというわけではありません。
満足ゆく「アウトプット」が得られなかったことは残念ですが、結果はどうであれ、「ちょっとでもいいアウトプットを出したい」という気持ちは、実は、両サイドの全関係者が抱く共通の「想い」なのです。
誰一人として、「プロジェクトを失敗に導こう」として働いているわけではないという、あたりまえの事実を忘れがちです。
とは言っても、「お金を出している」日本側からすれば、いつまで経っても、「成果物の完成に責任を負う」はずの海外側が、満足行くアウトプットを出せないことは、大変、歯がゆいものです。
本記事では、日本側で【イライラしている】すべてのエンジニアへ向けて、海外サイドで働く現地エンジニアの置かれた「就労状況」を知り、少しでも理解を深めて、「歩み寄り」ができるよう、情報をシェアしたいと思います。
日本の事務所デスクに腰掛けていても見えない、「彼ら」の日常生活に思いを馳せることで、ちょっとだけ心が寛容になるかも知れませんよ。
筆者とオフショア開発の出会い
メーカーへ社内SEとして入社し、海外生産拠点で導入されている生産管理システムの開発保守を担当。
東南アジアにある子会社(複数)のIT部門へ、駐在・長期出張を経験し、現在では、日本側で「ブリッジSE」として、世界各国のエンジニアとプロジェクトを推進する日々。
海外との業務経験が十年を超え、少しはアンガー・マネジメント(怒りやストレスへの対処を考える心理療法プログラム)ができるようになったかと思える、今日このごろです(が、まだまだ不十分です……)。
こんなに大変! 現地エンジニアの就労環境
こんなことを書くと、元も子もないようですが、そもそも、現地エンジニアには「愛社精神」なんてありません。
以下の具体例でもご紹介しますが、海外では会社に愛着を感じるほどの「恵まれた」就労環境ではないことが多く、「愛社精神」という発想が生まれないことは、ごく普通のことなのです。
そのため、自助努力でキャリアアップし、自分の手でハッピーライフを獲得するという考えが、海外では根強く、会社をあまりアテにしないし「会社よりも自分の方が大切!」という考え方になり、仕事のアウトプットでも手を抜いたり、ついついザツな仕上がりになりがち。
では具体的に、どのような面において「恵まれていない」就労環境だと言えるのか、いくつかの事例を通じてご紹介します。
働かない管理職。でも、給料は(軽く)倍以上
日本の企業では、一般社員と管理職との間で、給料の差額が「倍」にも開くことは、ほとんどありえないでしょう。
海外となれば、話は別で、管理職が【新卒給料のウン倍】をもらっていることは、ごく普通(アタリマエ)です。
人望があり、実務能力も認められる管理職なら良いのですが、たまたま会社創立時から勤務していたメンバーが「繰り上がり」的に管理職になっただけのケースだと、現地エンジニアは、強い不公平感を抱くことになり、早期の転職にもつながります。
日本では、管理職へなりたがらない一般社員が増えていますが、海外ではその真逆であり、少しでもチャンスがあればマネージャに昇格したいと思っている者ばかりだということも、付け加えておきます。
「通勤手当」は出ません
日本では「通勤手当」が支給されることは当然なので、「ありがたい」感じる従業員はいないでしょう。
海外では、「通勤手当」が支給されないのが普通であるため、みんな、ちょっとでも交通費を浮かすための努力をしています。
原付バイクを使うことはアタリマエ。
家が近いもの同士で「二人乗り」して来る人たちも少なくありません。
脆弱なインフラ
「通勤手当」が出ないことを紹介するだけでは、不十分かも知れません。
そもそも、国としてインフラが脆弱なので、通勤するだけでも、様々な「危険」と隣り合わせ。
- 亀裂だらけのアスファルト
- そもそも舗装されていない、ガタガタの砂利道
- 雨が降れば、すぐ洪水状態になる道路
これに加えて、公共交通機関は、「定刻通り」に運行するどころか、そもそも、「ダイヤ」という概念が存在しません。
それに、車体(バス、電車)の整備状態も劣悪なため、定刻通りに出勤できる保証がなく、あえて大枚をはらってマイカー通勤(複数人の同僚で便乗)する人もいます。
こんな状況では、定時になったら、(仕事が終わってなくても)まっすぐ家に帰りたいという発想になるのは当然でしょう。
日本のように、正確な「ダイヤ」がある国では、残業しても帰宅難民になることは少ないでしょうが、脆弱なインフラゆえ、通勤でどのようなトラブルに巻き込まれるか分からない現地の従業員にとっては、少しでも早く事務所を出たいと考えるのも納得がゆくものです。
薄給なのに、ぶら下がって来る親族が10人以上います
国や年齢によっても変わりますが、月給3万円、4万円という賃金で働いている人が大多数。
「お年玉」や「お盆の小遣い」として、日本の小学生が受け取る金額の方が、ひょっとしたら多いかも知れません。
現地の物価からすれば、これでも十分「恵まれた」給与水準ということになるのですが、問題は、ぶら下がって来る親族が10人いるというケースもあること。
そもそも発展途上国は子だくさんなので、年下の兄弟へ学費を出してあげているケースも、よく目にしました。
なかには「○○さんのおばぁさんが困っているから、皆でカンパしよう」という封筒が、昼食休憩時間に回ってくることもありましたが、みんな、嫌な顔せず、自分ができる範囲内で寄付をしていたのも印象的なので、記憶に残っています。
コロコロ理不尽に変更される業務内容
うまく現地ビジネスを獲得できている会社は良いのですが、東南アジアの日系子会社は、本社からの「おこぼれ業務」を淡々とこなすことが、まだまだ多数派でしょう。
ソフトウェア開発工程でいうと、最末端モジュールの開発や、単体テスト。
いわば、現地エンジニアは「末端の末端」というポジションで働くことになり、自分の裁量で決めたり、動いたりするチャンスに飢えています。
プロジェクトの「たずな」は、日本側が握っているため、せっかく頑張ってきたプロジェクトが中断になったり、自主的に進めて来た内部改善を、本社の【鶴の一声】でストップせざるを得なくなったり、フラストレーションの吹き溜まり状態であることも少なくありません。
まとめ:腐敗した政府機関、払っても納税者の利益につかわれない税金の問題も……
この他にも、就労環境とは関係のないトピックになりますが、「マジメに納税しても、社会が一向によくならない」ことも、現地エンジニアが不満に思っていることでしょう。
シンガポール等の好例をのぞき、東南アジアの政府期間は、ほとんどが腐敗しきっており、収入から3割前後は差し引かれる税金も、納税者の利益になるような使われ方がされていない現実があります。
清潔で安全な電車やバスを、会社の費用負担で利用でき、業務成績が多少芳しくなくとも、衣食住にこまらないほどの給与を支払ってもらえる日本企業へ勤めていると、現地エンジニアの就労環境を忘れがちです。
現地エンジニアが、業務以外でも、【苦労すること】があふれかえった日常生活を過ごしていることを考えれば、少しは、寛容な心で、オフショア開発を進めてみようという気になりませんか?