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「許仔猪脚麺線」|マイ鍋持参の常連さんもやって来る、地元密着な「一軒」
台北・大稻埕は「慈聖宮」まで、小吃ハンティングへやって来た。個性ある「小吃」飲食店が鈴なりに営業する、知る人ぞ知る「小吃フードコート」である。
あきらかに人だかりの集中している「一軒」が目にとまったので、とりあえず、この店の行列に参加してみる。
台湾の飲食店では、持ち帰りの客と、店内飲食の客とで列が分かれていることが多いのだが、ここはいっしょくたになっている様子。店舗が小さいので、列を分けるほどのスペースが作り出せない、というのが実情なのかも知れない。

人だかり数、ナンバー1
古ぼけた看板には「許仔猪脚麺線」とある。
創業したのはいつだろうかと思ってインターネット検索してみたら、四十年という情報もあったけれど、それが正確な情報であるかは未確認である。ただ、控えめに言っても創業四十年は下らないほどの「老舗感」は、十分ある。

「伝統」を感じる看板
お客のほとんどは台湾人。
中には、見るからに「常連さん」という、片手に(家から持って来た)鍋を手に待機している人の姿も。

「常連さん」と思われる
きっと、この鍋に、直接、料理を入れてもらって、持ち帰るのだろう。たしかに、そうすることによって、帰宅後、コンロにかけてすぐ温められる。ものすごく合理的だ。
カウンター席に腰掛け、店名の一部にもなっている、看板メニュー「猪脚麺線」を注文。

カウンター席に腰掛ける
目の前で調理が繰り広げられるので、まるで「台所で食べている」気分も味わえる。迫力満点。
まだ早朝だが、南国・台湾では、見ている方が同情したくなるくらい、店員さんが汗水ながしながら調理している。

やっぱり、カウンター席は素敵だ
一丁あがり。
一杯八十元と、ちょっと高めだが、この豚肉のボリュームを見れば、誰も文句は言わない。
「一番最悪」だけど「縁起がいい」という料理。いったい何物なのか
目の前に、ゴトンと置かれた器。
どれも豚肉だろうが、「コブシ」や「脚」の部位らしく、どれも大きくて,ゴツゴツ感がすさまじい。ハンパない迫力、圧倒されそうになる。

「猪脚麺線」
何をかくそう、豚肉が、これでもかというほどガッツリ投入されていることの背景には、台湾の文化的な意味合いがある。
【猪脚】に隠された文化的意味合いとは?
お気の毒だが、豚は人間に食べられる運命にありながら、「汚い」、「不衛生」というイメージを持たれがちである。
その脚(コブシ)については、(豚が)自分の糞の上を歩くこともあるため、一番不衛生な動物の、一番不衛生な部位、つまり「最悪の部位」と捉えられることもある。
そんな「最悪の部位」も、台湾食文化では欠かせない、大人気のグルメとなっている。ここ「猪脚麺線」も例外ではなく、見せつけるようにガッツリ盛りつけている。
台湾文化では、「最悪の部位」をテンコ盛りにしたから、これ以上悪い方向へ向かうことはないので、むしろ、縁起が良いという意味合いに派生した、とのこと。
誕生日パーティはもちろん、刑務所から出所後、新しい生活に向け更正を誓って「一口目に食べる料理」としても知られている。
豚肉のカタマリを「発掘」すると、下から出てくるのは、ソーメンのように細い麺。

豚肉のカタマリに隠された「麺線」
台湾では、「麺線」と呼ばれているが、この食材にも、ちょっとしたストーリーがある。
【麺線】に隠された文化的意味合いとは?
麺線は、ソーメンそっくりの食感だが、かな〜り長い麺である。
この「長い」の意味が派生して、「長生き」のシンボルにもなって、台湾食文化では、ポピュラーな料理ジャンルとなっている。
多少、食べづらいことがあろうと、もし短くカットしようものなら、人生を短くしてしまうようなものだ、という感覚が台湾人にはあるのかも知れない。
「縁起の良さ」をあらわす「猪脚」と、「長寿のシンボル」を意味する「麺線」。
これらを、ニンニクと豚骨ベースのスープに絡めて、アツアツでいただく。台湾では、よく小籠包に使われているスティック状の細い生姜が、トッピングとして加えられており、全体の味を引き締める効果を出している。

このプルプル感
思わず、ギョッとした。
長い長い麺を必死にすすっていると、背後からニュ〜ッと、手とともに「器」が伸びてきたのだ。後ろを振返ると、おじさんが立っている。

背後から、ニュッと「器」が伸びて来た
実はこの店、スープをおかわりし放題なのだ。
日本人にとっては、少しクセが強すぎるかも知れない、豚エキスたっぷりのスープを、台湾の人々は、こぞっておかわりしている。
「格闘技」に近い食後感。超ディープな台湾B級グルメを完食して
「麺線」と聞いて、軽めのB級グルメを想像していたが、テーブルに届いたのは、巨大な肉塊が六つくらい入った、人生で見たこともない迫力の一杯であった。
汗をかきながら、格闘という言葉に近い状況で、一杯を平らげたが、ぜんぶ食べ終わる頃にはバテてしまい、息もゼェゼェ。完食するだけでも体力が必要だけど、台湾のディープな食文化を味わうには、格好の「一軒」であることに、違いはない。
ここまで全部知ってしまったあなたには、試す勇気が残されているだろうか。
店名 | 許仔猪脚麺線 |
住所 | 台北市保安街49巷17号 |