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はじめに:おもわず嫉妬するほどウマい店が密集している魅惑の美食エリア
今回の「食レポート」では、南国・台湾の南都・高雄は下町「鹽埕」を訪問。
ダイエット中の人は、決して近寄ってはならない、魅惑の美食グルメスポットでもあるが、台北だけで満足してしまう日本人観光客は少なくない。

おもわず嫉妬するほど、ウマい店が軒を連ねている街を食べ歩いたレポートをお届けする。
グルメの街「鹽埕」訪問レポート
高雄の町歩きをスタート。
目指すは、高雄随一の下町エリア「鹽埕」。

高雄の街歩きを開始
同じ台湾でも、北部の台北、南部の高雄では日差しの強さがひとまわりもふた回りも違っている。
高雄の強烈な日差しを避けるには、「影オニ」をするように、ひたすら日陰をねらってルート設定した上で、歩くのがコツ。

灼熱地獄にあって、日陰は「資源」
ここまでの灼熱地獄ともなると、たまにしか出現しない「日陰」はある意味、レア感があってありがたみも感じる「資源」のようなものである。
港園牛肉麵館|「一生忘れられない一杯」が楽しめる牛肉麺専門店
長蛇の列ができている牛肉麺専門店「港園牛肉麵館」を発見。

店内は、けっこう広々としているにも関わらず、店の中に収まりきらない行列。たとえ、伸びることはあっても、一向に縮まらない行列を見ていると、そう実感せざるを得なかった。

「港園牛肉麵館」
とにかく、エグいほど客が待ちまくっている。
これ以上、行列が成長しないうちに並ぶのが得策と判断し、最後尾に参加した。

超大混雑
食べ応えのあるメニューが中心のためか、客の回転率は低く、けっこう待つことになった。
やっとの思いで入店し、オーダーしたのは「汁なし牛肉麺」。
正直、これが看板メニューかどうかは知らないし、これが食べたくて、来店したのでもない。メニューの一番冒頭に書かれてあったことに加えて、炎天下で順番待ちをしてクタクタになって、メニューを見て考えるのが面倒くさかったのだ。
大した思い入れもなしにオーダーした、「汁なし牛肉麺」だったが、いざ口に含んでみると…

「汁なし牛肉麺」

そう感じる、衝撃の美味しさだった。
モチモチしているが、食が進み、どこまでもスルスル食べられる不思議な麺。濃厚だが、しつこさを一切感じさせない、牛肉エキスたっぷりのスープ(汁なし、といいながら、器の底半分くらいに若干スープが注がれている)。
一口目を味わい終えたとき、本当に、体中に稲妻が走ったのだった。
台湾の牛肉麺と言うのは、二口目、三口目になると、シンプルな味付け故、飽き飽きしてくるのだが、ここの牛肉麺は、「飽きのこないシンプルさ」。きっと、先人の編み出したレシピでは、飽きがきてしまう原因がクリアにされ、「秘密の工夫」が加えられているのだろう。その秘密が何か、気になって仕方ないが、素人には分かりっこない。
一生、忘れられない味だった。
「汁なし牛肉麺」をオーダーして、よくよく考えると「やっぱ出汁も少し飲みたかったかも…」と思っていると、店のおばさんが無言でスープをテーブルに持って来てくれた。

「スープ」
どうやら、何をオーダーしても、スープはオマケで付いてくるシステムのようだ。
このスープ、牛肉麺の出汁とはおそらく別物だが、「汁なし牛肉麺」で出汁がない寂しさを慰めるには必要十分な質と量であった。
金温州餛飩大王|家族連れでにぎわう、庶民派の「肉まん系」レストラン
最終日なので、飛行機の出発時間から逆算するようにして、何軒のレストランをハシゴできるか計算していく。
時間がないので、とにかく、行列ができている店があったら、片っ端からトライしてみる。迷ってウロウロする時間がもったいない。
肉まん系の料理が有名だという「金温州餛飩大王」へ。

「金温州餛飩大王」
客層は、家族連れが多い。
ソロ旅人のアジ吉は、ちょっと存在が浮いてしまう。

家族連れでにぎわう
飛行機の出発時刻が迫っている。
残り時間と戦いながら食べ歩きをすると、次から次へと、色んなジャンルの料理を平らげるうちに、まるで「トライアスロン選手」になった気分。


「小籠包」
無理ゲーと思ったが、五分で完食してしまう自分の胃袋って一体……
最終日の残り時間にあれこれ試すのは、せっかく美味しい台湾料理の味わいを楽しむことができなくなるので、もう次回はやらないでおこう。やるとしても、せめて腹七分目に。その方が、次回への楽しみもできるし、賢明な選択だろう。
鴨肉珍|あっさりスープでいただく、つるつる鴨肉ビーフン
台湾の街は、どこに行っても、同じような色づかいの看板が街の風景にアクセントを添えている。
ちょっぴりレトロな感じがして、この色づかいが視界に入ってくると、「あぁ、台湾へ帰ってきたんだ」という実感がわく。

レトロな色彩の街並
お次は「鴨肉珍」、漢字から分かるように、鴨肉の専門店。
ランチの時間帯とかち合ってしまった為、とんでもない「交通渋滞」となっていた。正直、これだけ並ぶのなら諦めて、次回の旅に持ち越そうかと迷ったが、間も無く、そうする必要がないことに気付かされた。たしかに大混雑しているが、サクッと食べ終わるシンプルな単品メニューが中心なので、ものすごいスピードで列がはけていくのだ。
十五分も待つと、クーラーの効いた店内へ入り、料理にありつくことができた。

「鴨肉珍」
台湾の食堂は、店頭、すなわち歩道に面した「屋外スペース」に、キッチンが置かれたケースが多い。
歩き行く人々へ、調理シーンの「生演奏」を披露することで、客集めの効果を期待しているのかも知れないが、この「屋外キッチン」、料理人にとって、過酷な環境だ。
ただでさえ蒸し暑い、南国の気候だ。それに加え、エアコンなしの状態で、業務用の強力な火力を使って、何時間にもわたって調理をする。しかも、立ちっぱなし。
数年前、町内会で縁日の屋台を手伝って、たった二時間でヘバったことがあるアジ吉だが、その大変さは、容易に想像できる。

屋外キッチン
三分おきに、袖で汗を拭うおじさん。
その横で、汗を流さず、黙々と肉を刻むねーさん。
この二人が、奇跡的とも言える集中力を発揮して奏でる「デュエット」は、見応えがあった。

汗がとまらない
さばいても、さばいても、目の前にどんどん集まる客、どんどん積まれる鴨肉。
脇目も振らず、たんたんと調理していくオッチャンの姿に、「プロフェッショナル」を感じた。

「プロフェッショナル」を感じる
実は、ホンネを言うと、鴨肉を載せたホカホカご飯を注文したかった。
早朝から食べ歩きを続けて、胃袋の「空き容量」に余裕がなくなってしまった。
ここでドンブリいっぱいのご飯を食べて「やらかして」しまうと、せっかく外国までやったきたのに、食べ歩きをコンティニューできなくなってしまう。それは避けたかった。

そう思って注文したのが、プルプルの鴨肉を、ツルツルのビーフンといただく、あっさりスープ麺。
口に含めた瞬間、まるで流しそうめんのようにスルスルスルスルと、食道を走り抜けるビーフン。お腹いっぱいなのに、どんどん箸が進むフシギ感覚。そして、あっさり風味のスープが、加速度的に食欲を刺激し、消化を助けてくれる。鴨肉は、多すぎず少なすぎない適量ボリュームで、食欲がないときでも、負担にならない感じだ。
欲を言えば、カレー用のちょっと大き目スプーンに一杯くらいの、ちょびっとご飯が欲しかった。
食べ終わったスープの中に入れて、お粥のようにしてズブズブ食べたかったぁ。

つるつるビーフンのあっさり麺
本当は、あともう一軒ハシゴしたかったが、胃袋スペース的にも、飛行機スケジュール的にも、「食後のデザート」に移らないと危険なステージに達した。このリスクは取れないと思い、「デザート用」胃袋へと、スイッチを切り替える判断をした。
高雄婆婆冰|フルーツてんこ盛りの超ゴージャスな「スーパーかき氷」
やって来たのは、カキ氷専門店「高雄婆婆冰」。
冷房がキンキンに効いた店内。
外部と内部の両面から、体を急速に冷却できるオアシス的スポットだ。南国・台湾の南都・高雄は、とにかく、「暴力的」とも形容できそうな暑さ。たった五分、外を歩くだけで、ナイアガラの滝ばりに汗が流れ出る。ところどころに点在しているカキ氷屋さんは、文字どおり「駆け込み寺」的な存在となり、暑さに打ちひしがれた体を救ってくれる。

「高雄婆婆冰」店内
「高雄婆婆冰」、日本語にすると「高雄ばあちゃんのカキ氷」といった店名だ。
初代おばあちゃんが商売を始めて以来、いまは三代目。
非常にリーズナブルな価格設定で、台北の六割くらいの予算で食べられるが、こっちの方が、ダンゼン美味しい。初代おばあちゃんは、寝る間も惜しんで、カキ氷を美味しくする方法を研究していたという。「ちょっとでも美味しいものを、ちょっとでもオトクに楽しんでもらう」というのが、おそらく、初代おばあちゃんの経営哲学だろう。三代目にも、脈々と受け継がれている。
まるでギャグ漫画のように、これでもかというほど果物を盛り付けたカキ氷を注文。

果物てんこ盛りの「スーパーかき氷」
もともと多種類の果物が盛り付けられていることに加え、その上にアイスクリームがデーンと鎮座なすっているので、どんな果物が含まれているのか、全種類モレなく言い当てるのは、プロの料理人でも困難ではなかろうか。
グルメ素人のアジ吉は、スイカ、ウリ、マンゴー、バナナあたりまでは分かったが、それ以上は識別不能。どんな果物が含まれてるか分からないが、とにかく、人生で食べた氷デザートの中で、まちがいなく、一番美味しい。まちがいなく、マイベスト。まちがいなく、リピート確定。
今回の旅では、ありとあらゆる美食に触れる機会を得たが、極論すると、もしこのカキ氷だけしか味わえなかったとしても、旅の満足度が大きく下がることはないと思う。本当に、ここまで感動的な食事が、最後の最後にやってくるとは、我ながら、よくできた「プログラム」だったと自画自賛。
グルメ旅行の「終楽章」フィナーレ部を飾るにふさわしい逸品と出会えたことに感謝。
ついでに、スイカジュースを注文。
綺麗なピンク色をしたジュースからは、それがスイカからできているという実感を持つことが難しかった。ストローで吸ってみると、甘い、甘い、「安定のスイカ味」が口の中へやって来た。良かった、良かった。

「スイカジュース」
高雄は、空港・市街地のアクセスが非常に便利。
台北だと、どれだけスムーズに交通機関を接続しても(空港・市街地の移動には)軽く一時間は必要だが、高雄では、MRT(電車)を使って、ほんの十五分で市街地へ行けちゃう。空港と市街地が、これだけ近距離のエリアに位置しているのは、世界的に見ても例がそんなに多くない。

空港とスムーズに接続
怪しげな色彩の電飾がアクセントを添える、高雄空港の構内。
マカオのカジノを思い出した。しばらく行ってないなぁ。

怪しげな電飾
まとめ:長い歴史で培われたレシピを半日で食い散らかすという「贅沢」
どの店も、奇をてらった斬新メニューではなく、あくまでも伝統的、典型的な台湾料理で勝負しているのが印象的だった。先代がウン十年という年月を費やした「門外不出レシピ」には、時代に左右されない、普遍的とも言える美味しさが記述されているのだろう。
長い歴史で培われた美食を、たった半日でいとも簡単に食い散らかす旅は、ちょっぴり罰当たりで贅沢な、食べ歩きツアーと相成った。